がラク! らくらく授乳のきほん
北野寿美代さんインタビュー

ラクをすることに
罪悪感を感じないで!

構成・写真/河合蘭(REBORN)

 

退院してからが大変だったんですね‥‥

私が「ラクに授乳できるにはどうしたらいいか」と考え始めたのは、お母さん方が、産院から家に帰ってどんなに大変な思いをしているか知ってからです。そう、私は助産師なのに、病院の産婦人科に勤めているだけの時は、それがわからなかったんです。

開業して地域の新生児訪問へ行くようになってから、私は、家庭で、苦労をいとわず頑張っている方たちの姿を知りました。「お母さんは身を粉にして頑張るべき」という考えがあるから、みんな頑張ってしまうんですね。そして日本人には、それが美しいという思い込みも、どこかにあります。

でも、授乳というものは、とても長期間に渡る仕事なのです。無理して頑張っていては長続きしませんよね。

一般に母乳では人工乳に比べて授乳回数が多く、1回毎の時間も長く、とくに新生児の頃は1日中授乳しているように感じられるものです。私が新生児訪問で出会った方も、多くが授乳することに疲れ切っているように見えました。

一家の中心である女性が疲れて鬱々としていたら、家中が暗くなってしまいます。それで、母乳をあげ続けて行くには、「どうやったらお母さんがラクか?」ということを必死に考えるようになりました。

実は、母乳を出すホルモンは、リラックスしていないと出にくいのです。この子のためにと頑張って、つらい思いをし続けることが、かえって母乳の邪魔をしてしまうのです。ラクすることはお母さんのためだけでなく、赤ちゃんや家族みんなのためにもなります。

 

楽にやれてしまう人のヒミツは?

そもそも、母乳は本当に大変なものでしょうか?「母乳で育てている」というと「えらいわね」といわれることがあると思いますが、母乳育児は、「えらい」という言葉にぴったりな本当にがんばった人がいる一方、「別に何もがんばっていない」という人がいるのも事実です。

「楽な母乳育児」と言える条件はこんなところだと思います。

1.疲れない
2.痛くない
3.眠くない

これを実現するにはどうしたらいいでしょうか?

 

鍵をにぎるのは、「姿勢」と「ラッチオン(赤ちゃんのくわえ方)」

私の助産院では、出産から数日は、大体添い寝授乳(添え乳)ばかりですね。からだを一番休められる姿勢ですし、授乳しながら睡眠もとれます。危険だと考える専門家もいますが、親子共に健康で、酔っぱらってもいなくて、睡眠薬などを飲んでいなければ、まず安全です。

「痛い」はいろいろな理由で痛みが起きるわけですが、まず、お母さんたちはたいがい前屈みの苦しそうな姿勢で授乳するので、背中、肩、腰、腕など、あっちもこっちも痛いと言い出します。これは、クッションなどに赤ちゃんを乗せ、口の位置をしっかり乳首の高さへ持っていくことで防げます。

無理ない姿勢では赤ちゃんもうまく乳首を吸うので、乳首の亀裂も減ります。乳首の傷があるとき、産院によっては短時間の授乳にするように指導しますが、それは逆効果。早く切り上げると赤ちゃんは物足りませんから、ほ乳瓶のゴム乳首やおしゃぶりを吸うことになりますね。それは人の乳首とは違うものなので、赤ちゃんは間違った吸い方を覚えてしまいます。

赤ちゃんが乳首をくわえて吸い着くことを「ラッチオンLatch On」と言いますが、これはすごく大切なことです。口が上下左右に十分開いていること、くちびるがめくれて「ドナルドダックのくちびる」に近くなっていること、そして、鼻とあごが乳房に近いか、もしくは接触していることが正しいラッチオンのポイントです。

母親の乳首以外のものを吸わせず、生後できるだけ早く授乳を開始すると、赤ちゃんは上手になるはずです。

 

赤ちゃんは、母親を寝かせる名人

「乳首」ではない「乳房」の痛みは、母乳や母乳の材料になる血液が貯まりすぎて「緊満」の状態になることで起きます。とくに産後の入院中にひどい痛みを経験する方が多いのですが、これは、大抵授乳の時間や回数を制限したために起きています。

母子別室だったり授乳時間が決められていたりすると、どうしても吸わせる回数が減り、材料だけが乳房に運び込まれてぱんぱんに張り、痛みます。「ぐっすり眠るには、入院中赤ちゃんと離れている方がいいのでは?」と思う方も多いのですが、あてがはずれ、痛みで眠れないことがあります。

吸わせる回数が少ないと、母乳不足になることもあります。母乳は赤ちゃんが乳首を吸う刺激がホルモンに作用して出るものです。産後3日間くらい母親と赤ちゃんがずっと一緒にいると、赤ちゃんがのべつ幕なしに吸うので充分に母乳工場へ作業指令が行き、かつ作られたものは出て行くので、流れがスムーズになります。

赤ちゃんと一緒にいても親が休めるような、自然の仕組みもあります。赤ちゃんが乳首に吸い付くと母親の脳からはオキシトシンというホルモンが出て母乳を押し出すのですが、このホルモンには鎮静効果があり、母親をぐっすり寝かせる力があるのです。

 

「怠け者」と思われたら?

授乳姿勢やラッチオンのちょっとしたコツを覚えれば、あとは赤ちゃんと一緒にいて泣く度に飲ませているだけで、ほとんどの人は楽な授乳ができるようになります。

楽な格好をして授乳することのデメリットは、何もありません。強いて言えば、「母は身を挺して頑張るべき」と思っている人から、怠惰に見られてしまうことでしょうか? たとえば、リビングで添え乳をしながらテレビを見ていたりすると、中にはイヤな顔をする夫もいるらしいのです。

でも、母子が本当にリラックスして幸せそうにしている姿には、お父さんもいずれ「癒し」を感じるようになるはず。「見て、ゆったりおっぱいを飲んでる時って、この子すごく嬉しそうで、一層かわいいわよ」と、お父さんも幸せモードの輪の中に入れてあげて下さいね。

 

撮影協力(講演の写真)/カネソン本舗

親がラク!らくらく授乳のきほん
らくらく授乳のきほん INDEX北野さんインタビュー ここです3つの基本
横抱き添い寝テーブル授乳