子育て中の助産師さんどうしが、診療所でワークシェアリング
池川 明(産婦人科・神奈川「池川クリニック」院長)
HP: http://www1.seaple.icc.ne.jp/aikegawa/
今、お産の現場に助産師さんが不足していて困っています。一度は助産師の資格をとっても、結婚・妊娠・出産・育児で現場を去る人たちも多いと思います。そんな中、資格はありながら現場に復帰しようとする助産師さん達に、開業医での勤務をお勧めします。
私の医院では勤務している看護職は全て助産師で12名勤務しています。しかし常勤はおらず、全員パートです。これで月に10くらいしかないお産を扱っていますが、もっとたくさんの方に来て頂きたいくらいです。
なぜかというと、ほとんどの助産師さんが子育て中で、保育園へ送ってから迎えに行くまでの間だけ働ける、という方が多いようなのです。そして、徐々に子ども達が大きくなるに従って、勤務時間も増やすことができるようです。当直が週1回なら子育て中でもできますよ、という人もいます。また子どもが熱を出して突然その日に休みたい、という事も時々ありますが、お互いに勤務を融通しあってうまくこなしてくれているようです。子育て中の人にとってみると勤務できるのは最高に働いて週30時間がやっとで、週にだいたい1日から数日の勤務の人がほとんどです。午後の診療と土曜日の診療に苦労しますが、それほど外来も多くないのでそれなりにこなしています。兼業禁止ではないので、他で働きながら当院でも働いている人が半数くらいで、保健所からの嘱託で新生児訪問をしていたり、他の病院での勤務をしながら、当院でも働いている人もいます。嘱託を受けている山本助産院に出入りしている助産師もいて、助産院とのパイプ役になってくれています。またアロマセラピー、ホメオパシー、レイキなどを学んでいる人も、実際の現場で使ってもらい実力をつけてもらっています。やりたいことは比較的自由にしていただきながらいろいろな技を身につけて、その経験を地域の助産で発揮して欲しいと願っています。
しばらく現場から離れていて自信が持てない助産師さん、ぜひ開業医でお産の楽しさを思い出してください。きっと病院とは違った良さが見つかると思いますよ。
助産師として働こう――私の「潜在助産師からの復帰」と仲間作り
三宅 はつえ(REBORN・開業助産師・もものみ助産院) プロフィール
助産師不足や就業場所の偏在が声高に叫ばれるこんにち、お産の場に助産師を増やすには、地域に埋もれている「潜在助産師」に現場復帰してもらうのが一番の近道と考えられている。私もかつて8年間の潜在助産師を経験した。潜在から復帰したのは、以下のような経緯からだった。
当時、夫の仕事のため6年間スペインで生活、そして実母の病気看護のため慌ただしく帰国。助産師とはまったく畑違いの、傾いた実家家業を手伝っていた。ある日、何気なく訪れた以前の職場で産科医の先生とこんなやりとりがあった。「いま、なにしてるの?」「はあ、実家家業でゴミ屋して、トラック運転してます」「キミ、助産婦免許もってるんでしょ?もったいないじゃない。後輩がキミの家の近所で個人医開業して、訪問のスタッフ探してたよ」「じゃ、ご挨拶にいってみます」。簡単にするとこんな展開だった。それから程なくご挨拶に伺った産科開業医で探していたのは、実は訪問看護スタッフだった。しかし、その先生は「新生児訪問ですか。いいですね、やってみましょう」と瓢箪から駒のような話で、私はお産業界に舞い戻ったのだ。しかも、行政の新生児訪問も一緒に請け負おうと思って保健所に出向いたところ「新生児訪問は開業助産婦さんにお願いしているので、開業届けをだしてください」の一言で、思いも寄らなかった開業助産師になってしまった。
帰国してから12年、お産業界に復帰して10年が過ぎた。その間に、REBORNスタッフとなり、いいお産実行委員会に参加し、多くの助産師仲間と知り合えた。そして、ネットワークを通じて知り合った助産師仲間を、いろいろなところに紹介してきた。総合病院や個人医、看護学校の先生にイベントスタッフ、業界紙の取材や原稿の依頼などなど。
お産の現場から離れていると、仕事が少し怖くなる。そんな気持ちを振り切るためには、仲間の声かけや後押しが必要だ。「助産師はなにをする人か」、このことを多くの仲間と語り合うために、一人一人が言葉に出してみようではないか。「お産の現場に復帰しませんか?」と。いま、お産の現場には助産師が足りない。それも危機的な状況で、足りない。
家庭と仕事の両立は、きっとやり甲斐あるチャレンジ
河合 蘭(REBORN・出産ジャーナリスト) プロフィール
退職した助産師さんたちはよく「夜勤をしていたら子供が産めない」とおっしゃるし、「子供はやめておくように言われた」などと言う方も時々いらっしゃるので驚いています。産むことを応援するための職場でそんな環境とは、本当に残念。そのほかにも他のスタッフとの考え方の相違など、退職された方たちの胸にはつらいことがしまわれているかもしれません。
でも、これからはいろいろな変化が起きてくると思うのです。産科は、状況が悪くなる一方のようにみえて、まだお産に情熱を持ち続けている方たちは今まで以上に頑張っています。「こんなところなら、こんな形なら復帰してみたい」と自分のビジョンを持っていれば、チャンスはやってくるのではないでしょうか。
心を決めれば、あとは一段ずつステップを上っていけると思うのです。私の知る医療関係者は、育児で仕事を離れたあと、まず近所で医療と無関係のパートをして自信をつけ、それから診療所に出て行きました。
たとえ週に何日かの勤務しかできなくても、社会につながっている時間を持つことは、私は、子育てにもいいことだと思います。忙しいけれど、社会に何かを提供すれば、自分も必ず何かを得ます。皆さんの小さな勇気に期待しています!
応援団がいますから自信を持って!
熊手 麻紀子(REBORN・ファシリテーター) プロフィール
私の子どもは随分と大きくなり、お産と乳幼児の子育てからは遠のいてしまいました。それでも、助産師さんを応援したい気持ちはまったく薄らぐことはありません。なぜなら、お産で得た喜びは今でも消えることはないし、世の中のどこを見渡しても、教育・家族・健康・社会・・・すべての根源は生まれる場にあると思うからです。
お産とは、「医療」だけでなく「人間教育」の場であると思います。人が人を産むとき、どう人に寄り添われたかどうかで、「子育て力」の膨らみ加減が良くも悪くもなるように感じます。これからの時代、今まで以上に、産婦さん一人一人に手厚いケアが必要です。
子育てや介護、病気、留学、他科で働く等で助産師をお休みされていた皆さん。どうぞ、その人生で味わってきたことを活かしてください。暮らしの中で染み込んできた女の思い、悲しんだことも、苦しんだことも、喜んだことも、そのすべてが、赤ちゃんを産むときの女性に寄り添う糧となるのではないでしょうか。知識や技術はまた磨けば光ることでしょう。それよりも、女の気持ち、子どもの気持ち、家族の気持ちが以前よりもずっとわかるようになったご自身に自信をもって、その心を存分に活かしていただきたいのです。
決して焦らせたくはないのですが、お産の場に助産師さんが足りません。ゆっくりとまずできる範囲で、まず一歩から復帰して、そしてできるだけ早くお産の場にもどってください。正常な経過をたどるお産にも、ハイリスクで手術を要するお産にも、助産師さんの手が必要です。
「こんにちは!助産師の○○です。おかげんいかがですか?」と笑顔で声をかけられること、ただそれだけでも緊張がゆるんでくるものです。そして、その語らいの積み重ねが、お母さんを大きく豊かに成長させていくことに繋がると思います。
どうぞさまざまな人たちと手をつないで、力を発揮してください。日本中に応援団はたくさんいますから!
まずお母さんと赤ちゃんに触れることから
伊藤恵美子( NPO自然育児友の会)
HP: http://www.shizen-ikuji.org/
産科関係のニュースが日々報道され、多くの人に注目されています。でも、お産をめぐる現状は、私たちにとって、もっと以前から問題でしたね。私たちの望むようなお産をするためには、そこに寄り添うようにいてくれる助産師さんが必要ですが、その「助産婦さんが足りないし、養成する助産婦学校も足りない(閉鎖される) !!」という現状。こうした熊手麻紀子さんの呼びかけに突き動かされるように、『だから日本に助産婦さんが必要です』冊子原稿への協力(2001)、イベント「もっと助産婦in東京」の共催(2002)等々、私たちも一緒に取り組んできました。でも、高齢化の進行と養成数増加が望めない状況の中で、助産師不足は予想通り深刻化しています。
今、あらためて、お産をめぐる現状を前にして言いたいのは、やはり「もっと助産師!」に尽きます。今だからこそ、助産師さんに活躍してほしい、と切に思います。当会にも子育て中の助産師さん会員がたくさんいらっしゃいますが、休業中も身近な集まり等に参加することで、お母さんと赤ちゃんに触れ、ニーズを知り、できるところから助産師としての活動をスタートすることにつながっているようです。休業中やお産の現場から離れた潜在助産師のみなさんには、ぜひ、こうした母親たちの団体を利用してほしいと思います。
こころ豊かなお産の体験は、こころ豊かに赤ちゃんと暮らすことを楽にしてくれます。妊娠、出産と寄り添うように助産師がいてくれた体験は、それに続くおっぱいや子育ての日々に自分たちの力で向かうことを勇気づけてくれます。私たち自然育児友の会は、自然なお産とそれに続く子育てを豊かにする一歩を、一緒に歩んでくださる助産師さんに、熱いエールを送り続けていきます。
※現在、 NPO自然育児友の会では熊手さんとともに、『だから日本に助産婦さんが必要です Part2』の原稿募集をしています。(2007年発行予定)
また、2007年4月開催のマザリングフェスタでは、熊手さんをお呼びして、ワークショップ「ママミッドワイフ集まれ!」を行う予定です。
詳細は、事務局(http://www.shizen-ikuji.org/)までお問い合せください。
◆まずは一歩を踏み出してみませんか?