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東京都新宿区・国立国際医療センター
箕浦茂樹氏(産婦人科部長)、楯朋子さん(産婦人科病棟副看護師長)インタビュー

年間50例の助産所搬送を受ける病院

インタビュー・文・写真/河合 蘭

助産所の出産を支える鍵は医療施設との連携ですが、これが難航するケースは少なくありません。
そんな中、東京には、約10カ所の助産所と連携し、助産所からの転院や搬送を年間50件も受けている病院があるのです。


箕浦茂樹氏

■いくら議論をしても平行線だから「やってみよう!」

河合こちらの病院は、現在東京都のおもだった助産院多数と連携関係をお持ちですが、こうなるきっかけは何だったのでしょうか。

箕浦4〜5年前になるでしょうか。ここの助産師が妊娠して「助産院で産む」と言うんですね。私は、「どうしてこんな大きな病院で勤務している人間が助産院という訳のわからない所で産むのだろう?」と思ったわけです。その当時の私は、たくさんの医師が「助産院というところはひどくこじらせた症例ばかり送ってくる危険なところだ」と言っているのを聞いていましたから、不思議でしたね。

そのあと、助産師さんたちが「畳を買って欲しい」と言ってきたのが、この病院の変化の始まりです。その時、私は「畳?何するんだ、そんなもの」と言ったんですね。フリースタイル出産のことなど何も知らなかったですから。

私たち医師の受ける教育というのは助産師さんと全く違っていて、異常出産への対応がほとんどですよ。私も、「フリードマン曲線」を用いて、子宮口全開から2時間経ったらすぐに鉗子や吸引で出すような分娩を何も疑問を感じないでやってきました。お産に多様性はあるものの、やはりあるパターンにはめるという考えですね。バースプランという言葉は知っていましたが、具体的にはイメージできませんでした。

フリースタイル出産については何人かの医局員から大きな反対がありましたね。危険だ、不潔だ、と医師は思ってしまうわけです。そんな「動物に戻るようなお産」はやめた方がいい、と。それで、議論にならないのです。それで、議論は疲れるだけだから、もう、どんどん始めてみようということになって・・・

河合えっ、そっちへ行ったんですか。議論にならないのでできない、という話はよく聞きますが(笑)

■産んだ人の喜びの声が病院を変えていった

箕浦実際にやってみてよかったですよ。第一号のお産がとても喜ばれたのです。非常に長い手記を残していただいて、こんなに喜ばれるお産があったんだ、と驚きました。前回は分娩台でお産した経産婦さんが今回は畳でフリースタイルで産んで「はるかによかった」と言ってくれたり。そういう方がけっこういたものですから、実感として「この方がいいんじゃないか」と思い始めたのです。

また、昔から、心音が落ち始めると体位を変えましたね。でも、このお産でははじめから寝かせていないわけで、そうすると心音が落ちる人が少ない。全開になったからといって長くいきませる必要があるのかというと、そんなこともない等とわかってきました。データをとってみると、一時間経たないで生まれる子もいれば、五時間で生まれる子もいました。それでも大丈夫だとわかってきたんです。

助産師がついているので、心音をチェックしながら待つことができます。長引く方は、たいてい、微弱陣痛で穏やかな波しか来ていない状態ですしね。

■毎月のカンファレンスですべての搬送例を検討

河合連携システムの具体的なことを教えてください。

箕浦病院の地域連携室で「連携証」というものを発行しています。社員のIDカードのわうなもので、首にぶら下げていただく。これを、今約10カ所の助産院に発行しています。助産院という施設に対して出すのではなく、勤務スタッフも含めて助産師1人に対して1枚発行しています。この病院に妊婦さんを搬送するとき、助産師さんが同行する場合はこれをつけて来ていただくのです。また、病院の駐車場や図書館も使えます。

そして月に一度、連携している人が集まる「国際母子カンファレンス」を開き、その後に「地域助産師との懇談会」をもっています。2004年からですから、もう長くなりましたね。これは、一番いい形だと思いますよ。助産院から来た搬送例は、ここですべて検討します。ですから、連携助産院の方たちは、どこがどんな搬送をしているかおたがいにわかります。

河合「この症例は送るべき」という取り決めはどのようにしていらっしゃいますか。

箕浦日本助産師会のガイドラインを使っています。グレーゾーンについては、カンファレンスで話し合いになります。緊急搬送はとても少ないですね。出産中の搬送で比較的多いのは、破水をしても陣痛が来ない、なかなか進行がみられないというケースか、あるいは、少し早く早産の時期に陣痛が来てしまったという方でしょうか。ガイドラインでは、37週を超えていないと助産院では扱ってはいけないので。

■難しいのは、予定日を過ぎたときの陣痛誘発

河合開業助産師さんからの搬送と開業医の先生からの搬送は違うものでしょうか。

箕浦この病院は、いまNICU(新生児集中治療室)があまり小さい子を受けられないので、医師からの搬送は少なくなってきました。助産院からの搬送の方が多くなっているかもしれません。

助産院から来る搬送の特徴は、分娩についてこだわりのある方が時々いらっしゃるということですね。それで、若い医局員が疲れてしまうことがあります。今は、この病院も浣腸とか剃毛とかしていないし、会陰切開もほとんどしていませんが、問題は陣痛促進剤ですね。

産婦人科病棟副看護師長 楯さん

予定日が過ぎてしまった時に陣痛誘発をするかどうかで、よく問題になるのです。

箕浦この病院は41週で誘発をします。けれど、助産院の方については「41週6日までは正常範囲なので、陣痛が来たら助産院に行く、42週になったらこっちへ来る」と決めました。来て頂いたあとは、入院していただき、希望が強い場合には陣痛誘発をしないで状態をチェックしながら待つこともできます。

本当にたまにですが、病院に来たというだけで人生が終わったかのように思う方がいます。だから、開業助産師さんたちには、口を酸っぱくして「搬送になることもあり得る」と言っておいて欲しいのですが、それでも、こういうことはいくら言葉で聞いても実感できないものですよね。

河合はじめはショックでも、やがて「医療が必要なこともあるんですね」と「悟り」を開いていく方もいるのでは。

ほとんどの方はそうです。ただ、そうならない場合が心配です。その場合は、助産院の助産師さん、当院の助産師、ご本人の3人でバースレビューをして、しこりを育児にもちこさないようにしています。また、母児ともに異常がなければ翌日ぐらいに助産院に逆搬送するようにしています。

■ディスカッションの積み重ねで安心な搬送が実現

河合こちらは海外へ医療協力に出る方が多い病院ですから、国内では得られない体験をお持ちの医師が多いと思います。そのことは、この病院が助産院との連携をすすめていることと関連がありますか。

箕浦海外の医療活動も変化してきました。マダガスカルで始まっているプロジェクトは、いくら機械を備え付けても、医師がある時期に行ってみても、現地に基本的な助産ケアがないとだめだ、いう発想です。途上国の助産師は何もケアをしない人や危険な伝統的ケアをしている人が多いんですね。そして日本の助産師さんを見れば、その素晴らしさがわかります。だから、この人たちの技術を大切にしていかなければならない、とつくづく思いますね。

河合日本の産科医の先生たちの中には「院内助産院は大変よいが、開業の助産院は危険性が高い」と言われる方がいらっしゃいます。箕浦先生はどのようにお考えでしょうか。

箕浦院内助産院が理想かもしれません。でも私は、同じ土壌で話ができる助産師さんなら、院内助産院であっても、外部に開業している助産院であっても、ほとんど変わらないように思います。もともとリスクのない妊婦しか扱わないのが助産院ですから。話し合えるということ、その積み重ねが大事ですね。この病院の連携も、カンファレンスを重ねることでとてもいい連携になってきたんです。少なくとも、ここで連携している助産院は、異常があった場合相当早いタイミングで送ってきます。

河合実践していらっしゃる病院ならではのお話を、本当にありがとうございました。


インタビュー 2008年1月29日
紙REBORN24号より