Birth Library

本を読んで会いたくて

障害を持つ子を産むということ 19人の体験
(野辺明子・加部一彦・横尾京子編)
中央法規 1800円(税別)
野辺明子さん

by 三好菜穂子

(REBORN第24号1999年7月より転載)  

 赤ちゃんが無事に元気に誕生することを願わない親はいない。でも、もし赤ちゃんが重い病気や障害を持って生まれてきたら…。19編の手記に綴られた赤ちゃんの障害はさまざまだが、親たちの率直な体験談はどれもズシリと心に響く。編者のひとり、野辺明子さんに話をうかがった。

野辺明子さんの近況 2002.2

野辺さんの長女、長塚麻衣子さんが幼いときから母親になるまでを自ら綴った手記『お母さんの手、だいすき!』(中央法規)が出版されました。

先天性四肢障害児父母の会では、3月29〜31日に長野県志賀高原でスキーキャンプを予定しています。スキーキャンプ、父母の会の詳細は下記にお問い合わせください。
先天性四肢障害児父母の会事務局 03-3295-3755(10:00〜16:00)
HPアドレス http://fubo.iiis.jp/


三好 赤ちゃんが障害や重い病気ということでパニックになっている親の気持ちと医療者の対応のギャップがとても印象に残りました。


野辺 もう28年近く前になりますが、私の娘は右手に障害を持って生まれてきました。産院のスタッフの『見られたら気の毒に』という配慮からか、娘の産着の袖口は輪ゴムで留められていました。それを見たときに『この子の手は隠さなくちゃいけないような手なんだ』と、胸が締めつけられる思いでした。医療者がよかれと思ってやったことが、ただでさえ現実を受け入れられずに混乱している親の気持ちに追い討ちをかけることもあります。それとは逆にさりげないやさしさや思いやりが、親が我が子を受け入れていこうという気持ちの支えになることもあります。私の体験ですが、新生児室で娘のコットに『のべまいこちゃんです。どうぞよろしく』と、若い看護婦さんが書いてくれた白いカードがつけられているのを見たとき、『娘は可愛がってもらっているんだ』と、すごくうれしく思いました。思いやりややさしさ、悲しさを共有できる感性というのは、医療者としての経験の違いだけではないですね。


三好 どの手記でも、医療者に対する厳しい指摘の一方で、すさまじい葛藤を経ながら、いつしか懸命に生きようとしている我が子を受け入れていく様子が描かれています。改めて「子どもを生んで、育てること」について考えさせられました。


野辺 「先天性四肢障害児父母の会」の活動などを通して、医療者と親のコミュニケーションギャップが以前から気になっていました。この本も、医師や助産婦さんなど出産に関わる人たちのサブテキスト的な本が狙いでしたが、家族の方々の手記を読むうちに、障害や思い病気を持つ子どもを受け入れていく過程が、親と子の出会いの原点を見るようで心を打たれました。医療者だけでなく、これから子どもを持つかもしれない若い人たちにもぜひ読んでほしいと思います。


三好 クローンや着床前診断など、生殖をコントロールする高度な医療技術が、最近マスコミを騒がせています。


野辺 世の中に完璧な遺伝子を持った人はいないそうです。障害児を産むことも健常児を産むことも「たまたま」なんです。出世前診断がますます高度化するなかで、ぜひ出産前の母親学級でも、障害児が生まれたらということもぜひ一度話してほしいですね。いたずらに不安がらせるのではなく、『どんな子どもで受け入れていこう、育ていこう』という気持ちを持つためにも。そのときには、病気や障害を持つ親の会の存在や社会的なサポートなども併せて伝えてください。そして、医療者の方には、どんな障害を持った子どもであっても、この世に生まれてきた命に対して「おめでとう」と言ってほしいと思います。


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