Birth Library

本を読んで会いたくて

助産院へおいでよ
講談社 全10巻 各450円
河崎芽衣さん


インタビュー・文 三好菜穂子
(REBORN第21号1998年10月より転載)

   出産・育児を描いたコミックは多しといえども、助産院を舞台にしたコミックは初めてではないだろうか。女性コミック誌『Be Love パフェ』(講談社/毎月26日発行)に、助産院で働く助産婦の奮闘を描いた『助産院へおいでよ』は単行本化され、順調に版を重ねている。大学病院でのお産に疑問を感じた新米助産婦モトコさんが生方助産院に転職し、そこで妊婦とその家族との関わりの中でさまざまなお産を介助しながら、自身も助産婦として成長していくという一話完結の物語。一貫しているのは、出産を通じて描かれる家族の絆だ。

 

 

三好 看護婦や産科医を扱ったコミックは今までもありましたが、助産婦を主人公にした作品は珍しいと思います。まず、 この作品を描くことになったきっかけは?


河崎 助産婦の友人と知り合った当時、病院で働いていると聞いたので「看護婦さんですか?」と尋ねたら、「助産婦です!」ときっぱり言われたのが強く印象に残っていて。それからですね。助産婦という職業に興味を持つようになり、いつか漫画に描きたいなぁと思ったのは。念願かなって、まず短編で病院勤務の助産婦を主人公にした話を描きました。その作品が好評で、助産婦の話で連載が決まったときに、「助産婦本来の仕事を全うできるところはどこだろう?」と、考えた末に舞台設定を助産院にしたんです。


 仕事場の本棚には、お産関係の書籍、ビデオが数多く並ぶ。そのほとんどが自然出産に関するものだ。


河崎 お産に関しては本やビデオで勉強しました。はじめは「フリースタイルのお産」と聞いてもピンとこなくて…。四つんばいくらいならまだなんとかイメージが涌くのですが、立ったりしゃがんだり、なんて書いてあると、もう想像を絶する世界(笑)。ビデオを見て、やっと納得できたんです。主人公のモトコが助産婦として成長する過程は、私自身が自然なお産を理解していく過程とも言えますね。


三好 河崎さん自身のお産観も変わった?


河崎 お産のことを知れば知るほど、一般に病院で行われている安全第一の管理分娩が、すごく苦しいお産に思えてきました。すんなりいくものを、わざわざしんどくしているような。これは、自分がお産をする前に知って本当によかった(笑)。出産方法にしろ、出産する施設にしろ、多くの人は妊娠してから考えま
すよね。でも、妊娠する前から考える機会があれば、その人なりの「いいお産」をできる人が増えるのでは? たまたま、連載している雑誌の6割以上は若い女性読者。これから出産するかもしれない若い読者が読んでくれている、というのは連載を続けるうえで大きな励みになっています。


三好 読者からの感想はいかがですか?


河崎 若いぶん、先入観がないせいか、『こういうお産もあるんだ』と素直に受け入れて、助産院や助産婦さんを身近に感じたという声をよく聞きます。「近所に生方助産院のような施設があれば、そこで産みたい」という感想も多いですよ。出産を経験された方は、漫画を読んで自分のお産を思い出されるようで、自分のときはこうだった、ああすればよかったという長いお手紙をよくいただきます。


三好 1話完結なので、ストーリーを考える作業がかなり大変だと思うのですが。


河崎 そうですね。限られた枚数の中で、どんなケースでも最後には無事にお産させなければならないので、まさに産みの苦しみ(笑)。まず、ストーリーを考えて、ストーリー中のケースが医学的に不自然でないか気を遣います。お産のケースについては、ジモンの中根直子助産婦という経験豊かなアドバイザーがい
るので心強いですよ。『病院に搬送されるんだけど、最終的には助産院で産めるようになるケースってある?』なんて都合のよい相談にも即答してくれるのは、ありがたい限りです。


三好 これから描いてみたいテーマは?


河崎 主人公自身に出産を経験させて、その体験が助産婦という職業にどう反映されてくるか? そして、ゆくゆくはモトコが独立して、自分の助産院を開業するところまで描きたいですね。

REBORN21号(98年10月発行)に掲載


●2001年12月 河崎芽衣さんの近況
インタビュー後、新米だったモトコさんもすっかり中堅助産婦に成長し、自分の出産も経験しました。そして最終話は、新たな地での一人立ち(開業)と、今後を期待させるラストでした。『助産院へおいでよ』はとりあえず一段落の河崎さんですが、今度は以前から温めていた病院勤務の新人助産婦の物語『ミッドワイフストーリー』を執筆中。1月26日発行の『Be Love パフェ』(講談社/毎月26日発行)で発表予定なので、新たなヒロインの活躍を乞うご期待!

河崎芽衣さんのHP http://www09.u-page.so-net.ne.jp/bf6/aiai/

 

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