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佐藤敏信氏(厚労省医政局指導課長)に聞く
産科医不足に対する厚労省メニュー10
文・河合 蘭
取材・河合 蘭、三好菜穂子、淺井明子
イラスト・宮下真沙美

 「産み場所がなくなる」という危機感は、まだまだ深刻化の一途をたどりそうです。個人の力、都道府県の力のみでは及ばない問題になっており国のリーダーシップが期待されますが、厚生労働省で今後進められていく可能性のある解決メニューにはどのようなものがあるのでしょうか。この問題に取り組み続けてきた佐藤敏信氏(厚労省医政局指導課長)に現状をお聞きしつつ、今年度の厚労省予算概算要求からおもなものを10のプランとしてまとめてみました。

 厚労省ホームページから検索していくと国には実にさまざまなプランがあることが読みとれます。佐藤氏を訪ねてみると「ひとつずつつぶしていきます」とファイト満々。しかし次はこの言葉でした。「でも、日本では職業選択は自由ですからね。現実にはとても難しいです」国民が産科医をどんなに増やしたくても、書かれた政策と現実の間には深い溝があるようですが、まずはプランをうかがいましょう。

●メニュー その1 
「集約化」――平成19年度から本格稼働

「医療の問題を整理すると、まずは人、そして箱、お金です。箱の対策としては集約化をやろうということですね。地域の医療施設を整理するというのは、地元にとってとても大変なことですよ。病院開設者の立場もあれば、選挙もあります。それでもやっていかないと、地域によっては、産科施設がすべて倒れてしまうおそれがあります」(佐藤氏)

今年度要求される医師確保対策の予算概算は、この事業に最も大きな比重がかかっています。これは、日本では医師が「広く薄く」配置されているために、ひとつひとつの施設で医師の労働環境が非人間的になり、安全性も低下するという考えから、医師など「医療資源」を一施設に集約あるいは重点配置していこうとするプランです。 

かねてから「遠くまで産みに行かなければいけない」「個人産院から分娩業務をとりあげるもの」などと議論の的になってきましたが、プロセスはすでに平成18年夏からスタートしており、現在、都道府県は集約化の計画を提示するように求められています。そして平成19年度は計画が実施に移されます。平成19年度は、集約化が本格稼働する年になるのです。 

プランが実施される場合、県全体ではなくある地域のみですが、すでにある総合周産期母子医療センター、地域周産期母子医療センターなどが「連携強化病院」になります。そして、まわりの施設の産科は、「分娩をやめて妊婦健診や婦人科診療のみにする」「リスクが十分低い分娩のみを扱うことにする」など現在の業務の一部を削り、その際ベッド数を削ることになるかもしれません。

●メニュー その2 
都道府県に医療政策のエキスパートを送り込む

●メニュー その3 
国が医師確保のための中央会議を組織し、どうしても困っている地域には医師派遣もおこなう

これまで病院に医師を派遣してきた各地の大学医局に力がなくなってきたことから、医師派遣も可能な中央組織をつくろうという構想があります。「地域医療支援中央会議」という名称で、自治医科大学、日本赤十字社、社会福祉法人恩賜財団済生会、国立病院機構、日本医師会などが参加することになっています。

お金もスキルも不足しがちな都道府県にとっては、中央が動いてくれれば大歓迎でしょう。ただしこれは、佐藤氏がかなりの難航を予想しているプランでもあります。

●メニュー その4
女性医師が子育てしながら働けるようにする

●メニュー その5
潜在助産師のトレーニングをおこない、診療所で働いてもらう

●メニュー その6
将来地元で働く意志ある人のための医学部入学枠を拡げる

「日本は国民皆保険で医師にかかる経済的負担感が少ないため、医療費は医師が増えるほどふくれあがってしまうことがわかっています。そのため医学部は国が定員枠を決めているのですが、今回、医師不足の10県において、最大10年間、10人まで増やしてよいことになりました」(佐藤氏)

定員拡大は、医大のある県の病院で働いてくれる医師の増員をねらっています。地元出身者のための入学枠「地域枠」が拡がり、出身でなくても将来その地で働こうという意志がある者の入学枠が設けられます。また入学後の教育カリキュラムの中でも、学生の地域医療への関心が高まるような改良が加えられます。

自治医科大学は、自治体が共同で設立した医大。卒後に就学期間の1.5倍の期間(通常9年間)へき地の病院など自治体が指定した県内の施設に勤務すれば、学費が免除される大学です。ここの定員枠も、平成20年度から最大10年間、10名まで拡げられます。

地方の病院に勤務する医師の数は、これで増えていくかもしれません。しかし、その医師が産科を選ぶかどうかはわかりません。もしかしたら、産科医はほとんど増えない可能性もある、と佐藤氏は言います。

●メニュー その7
へき地、離島にはヘリコプターを飛ばし、宿泊分娩になる場合は費用を補助する

産科医空白地帯が増え続け、集約化が進めばさらに増えます。そうした地域への対策として、民間ヘリコプターを借り上げて離島の巡回診療がおこなわれるプランが検討に入ります。搬送の時に医師が乗り込んで来てくれる「ドクターヘリ」の稼働なども見直され、海上保安庁、自衛隊などのヘリコプター活用状況も調査されます。また、遠くから産みに来る妊婦さんのための宿泊を支援する方法が検討されます。 

●メニュー その8
インターネット、電話をもっと活用する

●メニュー その9
医療事故が発生したとき、死因を究明する第三者機関を作る

医療事故が発生した場合、現在は裁判によって解決をはかることになります。また最近では警察の取り調べが入るケースも増えています。これ以外の問題解決の方法が2つ提案されていて、ひとつが「死因究明制度」です。どのように究明していくかは、平成18年度内に厚労省から試案が提出され、平成19年度は有識者による検討会が開催され論議されていきます。

●メニュー その10
医療事故に遭った方の全員に一定金額が必ず支払われる制度を作る

「無過失補償証制度」と呼ばれる制度で、過失のあるなしに関わらず、重大なことが起きれば無条件に経済的な補償がおこなわれるという制度です。平成19年度は、仕組みのあり方を検討します。

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<私感> 厚労省の政策メニュー詳細を知って

 厚労省のメニューはいかがでしたか?
 集約化は、すでに全国で起きている自然現象ではあるものの、それが起きる前に行政の主導で産み場所を制限していくのはとても大変なことだろうと思います。しかし今回の政策を見ても、国がその方向へ向かっていることははっきりしています。都道府県には、正常出産の質ということも含めた意味での良い拠点病院を作っていっていただき「遠くても、あそこへ産みに行きたい」と女性に思わせ、出産意欲を低下させることのないようにしていただきたいと思いました。
  また、助産師活用のための国の動きが、少し少ないようにも思いました。内診問題も逼迫した問題ですから、看護師が助産師になる道を拡げ、さらに助産師の中から助産師外来、院内助産院を担える実力派を育てていくことも急務だと思います。
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