開業助産婦日記

 

トピック 24時間風呂での出産をめぐって

三宅はつえ



 「レジオネラ菌で女児死亡 24時間ぶろ水中出産」というセンセーショナルな見出しが、中日新聞の朝刊に載った。99年10月29日のことである。同紙は翌30日、31日と事件の背景を続報として伝えた。
 今年の6月、名古屋市内で自宅風呂で水中出産し、出生後8日目に女児が死亡。死因はレジオネラ菌感染による肺炎である。
 この記事のタイトルだけをみると「水中出産って、アブナイんだ!」ということになる。しかし、実は問題はちょっと別のところにあった。この出産は「無介助分娩」だったのである。妊娠中は助産婦が関わっていたものの、出産は夫婦のみで行い、直後に助産婦が駆けつけている。出生証明書を書いて貰うために、赤ちゃんが生まれてから助産婦を呼んだのだと思われる。夫婦は「育児文化研究所」のセミナーに参加し、水中出産を選択したそうだ。24時間ぶろを使うことも、この「育児文化研究所」の推奨だ。実は24時間ぶろは以前からレジオネラ菌増殖で問題となっており、妊娠中かかわっていた助産婦も24時間ぶろは使わないように指導していた。
 99年の秋口、日本助産婦会では「助産所の実態調査」を行い、『水中出産』と『育児文化研究所』について、特に質問項目を設けていた。
 『水中出産』については、浴槽の種類や設定温度、温湯や浴槽の清潔保持・検査、施設としての今後の取り組みについての書き込み項目があった。
 『育児文化研究所会員の分娩』については、今までにトラブルに巻き込まれたことがあるかどうか。関連事項で気がついたことも書き添えるようにとのことだった。
 結果は同会の季刊誌「助産婦」に掲載されるが、これに先立ち、99年12月28日の東京新聞一面トップ記事に『医療排除の出産8人死亡 24時間ぶろ感染死の「育児文化研」』と言う見出しが踊った。「育文研」は自宅出産の危険性についてはほとんど触れていないため、事態を重く見た厚生省は、市区町村や保健所を通じて自宅出産の危険性を伝えていくとしている。「ちょっと待ってよ!」という感じである。自宅出産がアブナイんじゃなくて「無介助分娩」がアブナイんですよ。このあたりを取り違えられると、出張開業助産婦としては立場がない。「振り向いても、そこには医師はいない」環境だから、開業助産婦は慎重に妊婦さんの状態を見極めようとする。問題がありそうだなというときは、もちろん医療機関に委ねるのだ。どんなに見極めても、お産には100%安全はないけれど、一つ一つを丁寧に見て行くことで、その確率はかぎりなく0に近づくと思う。
 水中出産にしても、この事故をきっかけにイメージがぐ〜んと悪くなった感じだ。ホントに「水中出産」はアブナイんだろうか。
 「全国助産院マップ1999年度版」によると、水中出産を手がける助産婦は60名を越えている。年間の水中出産件数が100件を越えるところも、数カ所知っている。たぶん、千人近い赤ちゃんが、毎年水中で産まれているのではないだろうか。
 東京都世田谷区に、その名も「アクア・バースハウス」という助産院がある。代表の山田節子さんは今年の日本母性衛生学会に水中出産の安全性についてのデータを発表した。同院で出産した144名の赤ちゃんについて、熱発や眼脂などの感染徴候は見られなかったとのことだ。筆者の当直先も過去数年で相当数の水中出産があったが、感染徴候の見られた児はいなかった。
 名古屋の事故に対し、山田さんは「死亡事故については水中出産だけが問題だとは思えない。まず、無介助分娩だったことが一番の問題。その後、黄疸で児は病院に入院もしているので、このあたりの管理はどうだったのか、よくわからない」と話された。
 いずれにしても、水中出産はこの数年で全国的に広まった。現在介助している人のほとんどは、学校で習った技術ではないだろう。見よう見まねと言えなくもない。各助産婦は独自のガイドラインは持っているが、このあたりで一応の統一基準を作る必要があるのではなかろうか。なにしろ、1年間で何人の赤ちゃんが水中出産で産まれているかもわからないし、風呂水の培養検査などのデータも、調べたり調べなかったり、まちまちだ。

REBORN第26号2000年1月号に掲載したものです。

SOLOREBORN index