これでいいの? おかしな母子同室
REBORN第25号(1999年10月発行)より
母子同室制が病院でも増えてきました。ところが、よく耳を傾けてみると、女性たちの間で母子同室の評判は、必ずしもよくありません。病院のきまりごとに振り回され、疲れてしまう人が多いのです。今回は、母子同室が普及してほしいからこそお送りする、ちょっと辛口の特集です。 リボーン紙購読会員を会員番号より無作為に選んで電話取材したものです。紙媒体のREBORNでは発言者の実名を載せましたが、ここでは個人情報を守るため匿名としました。
構成・河合 蘭/文・小栗久実子・三好菜穂子・三宅はつえ/イラスト・宮下真沙美
・あなたが体験したのは、あるいは実施しているのはどんな母子同室ですか・それをどう感じていますか?
・入院中、どんな風に母乳またはミルクをあげましたか、あるいはどうあげさせていますか?
出産体験者の声
医療者の声
出産体験者に聞きました
●(栃木県)第1子(7ヶ月)を総合病院で出産
・産後1日目から同室。赤ちゃんはコットに寝かせ、自分のベッドでの添い寝は禁じられていた。授乳は授乳室以外では禁止だったが、経産婦さんで慣れた人はこっそり部屋であげていた。授乳時間は3時間おきと決められ、赤ちゃんがどんなに泣いても、時間が来るまではあやしていなければいけなかった。授乳ごとに哺乳量を測して、足りないときには糖水を飲ませた。1ヶ月健診時の母乳率は1割ほどらしい。
・「母乳育児に積極的」と聞いて選んだ市立病院だが、これで本当に母乳育児が楽しくできると思っているのか、病院側に聞いてみたい。
●(北海道)第1子(1才1ヶ月)を個人産院で出産
・ 希望すれば当日からの終日同室が可能だった。夜間は、疲れたときなどは預かってくれた。同床は特に勧めていなかった。授乳のたびに哺乳量を測定するため、部屋から遠いところにある体重計まで、夜間にも何度も通った。
・ 会陰切開の痛みもあり、毎回の哺乳量測定はとても疲れた。せめて各部屋に体重計があれば、と思ったが、そもそも、おっぱいのあまり出ない生後数日の間に、なぜ毎回チェックしなければならないのか? 今回は初めてのお産でよく判らないままに終わってしまったが、次回は、バースプランをしっかり書きたい。
●(埼玉県)第1子(1才6ヶ月)を個人産院で出産
・ 帝王切開で出産したので終日同室は4日目(通常は2日目)からだったが、2日目からは赤ちゃんが泣くと連れてきてくれて、授乳できた。コットはあったが、ほとんど添い寝で過ごした。授乳は部屋で自由にできたが、哺乳量の測定が義務づけられ、最初の1週間は夫の手助けで何とかのりきれたものの、とても疲れた。
・ 帝王切開だったので自分で産んだ実感がなかったが、赤ちゃんと添い寝して一緒にすごすことによって、親子関係をスムーズに始められた気がする。体力がゆるせば、産後すぐから一緒にいたかった。母乳で育てたかったので、赤ちゃんが欲しがったときにすぐあげられる同室制でよかった。
●(東京都)第1子(4才)を総合病院、第2子(2才)を助産院で出産
・ ・第1子/2日めから、希望により終日母子同室だった。面会時間の間だけは、新生児室にいた。私は基本的にコットで寝かせていたが、同床も可能だった。昼間の授乳は授乳室に決まっていたが、夜間は部屋でもOKだった。ただ私は飲ませるのが苦手だったので、助産婦さんにやり方を教えてもらうため授乳室に通った。
・ ・困ったのは、6人部屋で隣のベッドとの間隔が狭く、周りに気を遣って疲れてしまったこと。入院中はいろいろな講義などもあって忙しかった。疲れているときは無理せず、別室にしてもよかったかな、と後になってから思った。
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●(埼玉県)第1子(7才)を総合病院、第2子(5才)を助産院で出産
・ 第1子/分娩翌日から終日同室で、コットに寝かせたが、添い寝も黙認されていたようだ。授乳(自律授乳)、おむつ替えはベッドでできたが、おむつは部屋の外まで取りに行かなくてはならないし、授乳毎に哺乳量を記録させられた。哺乳量の記録などでとても疲れてしまい、一晩預かってもらったが、その夜は不安からか悪夢にうなされ、余計に疲れた。
第2子/生まれた直後からずっと添い寝。部屋を離れるのはトイレへ行くときくらいだった。
・ 赤ちゃんとずっと一緒にいられたのでとても安心できたし、歩くことが少なくて楽だった。第2子ということもあるが、一緒にいられたことは、育児への自信につながったと思う。
●(茨城県)第1子(2ヶ月)を個人産院で出産
・分娩室では、赤ちゃんはコットに入って隣にいた。部屋に帰るとすぐに同じベッドに寝かされたが、おっぱいのあげ方などの説明が無く不安だった。赤ちゃんは夜中に何度も泣いて、私の目の下には隈ができた。とても疲れたが、預かってもらうタイミングがよくわからなくて、一人でがんばった。入院中はとても疲れたが、自宅に帰ってからは母乳が良く出て楽になった。
・本当は、赤ちゃんが産まれたら、すぐに抱いてみたかった。おっぱいのあげ方をもっときちんと説明して欲しかった。退院したあとで、助産婦さんが新生児訪問に来てくれた。そこで添い寝の方法などを聞いたら、とても楽に授乳できた。これを入院中に聞きたかった、と思った。
●(大阪府)第2子(5才)を大きな病院で出産
・ 翌朝から終日同室。コットはあったが、ずっと添い寝。赤ちゃんの欲求にあわせて授乳し、哺乳量は母親が気になる場合だけ測ればよかった。ただ、4人部屋で赤ちゃんに障害のあった人と同室になり、その家族から「赤ちゃんの泣き声を聞くとつらい」と言われ、気を遣った。
・ 赤ちゃんがかわいくて一時も離したくなかったので、添い寝は精神的にとても落ちつけた。入院中から一緒にいることで、その後の育児がスムーズに行えたと思う。ただ、不妊治療や切迫早産などで入院している人と同室になる人もいて、赤ちゃんが泣くと抱っこして廊下に出るなど気を遣っていたようだ。
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●(宮城県)病院で第1子出産
・3時間ぐらいおきに授乳した。母乳以外 は糖水のみ。
・5ヶ月までは母乳だけで、その後ミルクを足した。9ヶ月頃、母乳が出 なくなったのでやめた。
・母乳量がわからないし、初産でもあったので、夜泣きの時などは不安だった。
●(東京都)助産院で第1子出産
・生まれてすぐにおっぱいをあげた。助産 婦さんが胸の上に乗せてくれて赤ちゃんが自分でおっぱいを探して吸いついた。
・6ヶ月で仕事に復帰したので、昼間はミルク、朝晩は母乳にした。
・冷凍母乳も考えたが、結構キツイのでわりきってミルクに。飲んでくれるか心配だったが、両方ともOKだっ た。母乳だけにこだわらなくて良かったと思っている。
●(秋田県)助産院にて第1子出産、現在妊娠9ヶ月
・生後すぐに抱っこして吸わせた。後は夜となく昼となくいつでも泣いてほしがる度に吸わせた。
・月経が 再来せず、第2子を希望していたため、2才3ヶ月で断乳。
・断乳して4週目で月経が 始まった。長男は今でも吸いたがるが、早産が心配なので、あと少ししたら、長男にも吸わせてもいいかなと思っている。
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医療者に聞きました
●(大阪府)助産院勤務助産婦
・ 出生直後からずっと母子は一緒にいる。分娩時間が長く、褥婦さんの疲労が強いときには、出生後2時間位してから一時預かることもある。どうしても必要な時以外は糖水もミルクも与えず、完全母乳にしている。
・ ・会陰に傷もなく、お産の疲れも少ない人が多いので産後のからだが自由に動き、赤ちゃんとのコミュニケーションもスムーズに取れるようだ。順序として、出産施設は「赤ちゃんに優しい」ことを考える前に、「産む人に優しい」かどうか考えた方がいいと思う。お産が楽にすめば、自然に子供に手が伸びるのが本当だと思う。手が伸びないのは、何らかの理由があるはず。母子同室の大変な面は、お産に関わる人のやさしさが、それを癒すと思う。
●(宮城県)総合病院勤務看護婦
・出産直後からコットで母子同室。同床は特に
勧めてはいないが、禁止もしていない。18時
から9時までは新生児室に預かる。母乳栄養確立のため頻回授乳を勧めており、夜間は褥婦さんを起こして新生児室で授乳してもらう。
・終日同室の方が良いと思うが、授乳に不慣れな初産婦さんなどは、新生児室に集まってもらった方が指導しやすい。特に夜間は人手がないので、ひとりひとりを見るのは不可能。
●(東京都)総合病院勤務助産婦
・ 出生後1日目より終日同室。同床は転落などの危険を考え絶対禁止。部屋での授乳は可だが、廊下や授乳室に置いてある体重計で毎回哺乳量を測定する。
・ 大きな病院は体制として動いている。目的の第1は安全であり、それは達成されている。病院で出産するということは、その病院のシステムを選択したということ。個人的な意見としては、出生直後の赤ちゃんを母親から離しておくと、赤ちゃんが不安定になる気がする。だが個人的にどう思っても、多くのスタッフの価値観を変えていくのは難しい。
●(兵庫県)元総合病院勤務の行政助産婦
・ 産後2日目から同室だった。夜間も含む3時間毎の授乳で、授乳室に来ない人は起こしに行った。毎日午後2時に測る哺乳量によって、用意するミルクの量を決め、保温器に入れておいた。母親が部屋を空けるときは赤ちゃんを預けに来てもらっていたが、短時間のときは母親同士で見合っていた。
・ 大部屋で、夜間に泣き出した赤ちゃんを抱いて、廊下をウロウロしていた母親がいたが、これでは体を休ませることができない。自分は自宅で出産した。生まれたときから片時も離さず添い寝し、泣いたらおっぱい、おっぱい。これが理想だと思う。
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●(鳥取県)開業助産婦(個人産院にも勤務)
・産後2日目から同室。希望があれば産後1日目からでも可。コットがあるが、自由にしてよ
いと話すと添い寝する人が多い。赤ちゃんが欲しがったときに部屋で授乳。母親が疲れている
ときは赤ちゃんを預かる。
・様子を見て、体力的に大丈夫そうな人には産後1日目からの同室を勧めている。経産婦さんは嫌がる人が多いが、助産婦が動機づけしたり、いろいろな面でサポートしていくことで、同室の良さに気づいてもらえると思う。
●(福島県)個人病院勤務助産婦
・ 出産直後、分娩台で初回授乳。8時間後から新生児室へ3時間毎に通い授乳。十分な授乳量があるまで哺乳量を測定。適宜、糖水を追加。産褥2日目から母子同室。同床も勧めている。
・ 個人的には出産直後からの同室同床が理想だが、現実は難しい。特に夜間は2人で分娩・褥室・外来もフォローするため手が足りない。また、経産婦さんから「別の病院は別室で楽だった」等の意見も多く、無理を押してまで直後同室はできない。どうしたら「自分で産んだ子だから自分の隣にいて当たり前」と自然に思ってもらえるのだろうか。悩みはつきない。
●(神奈川県)総合病院勤務助産婦
・産後1日目から終日同室だが、希望があれば産後すぐからでも可。授乳は部屋で頻回授乳、
気になることがあるときは授乳室に来てもらう。コットもあるが、添い寝も、十分に注意しながら見守っている。母親が部屋を空けるときは、何が起こるかわからないので、短時間でも必ず赤ちゃんを新生児室へ預けてもらう。同室の母親同士での預け合いは禁止。
・「赤ちゃんのことがよくわかった」「いっしょにいられてよかった」と退院していく人が多い。疲れている人には、ほんの2時間でも赤ちゃんを預かると、疲労回復しておっぱいが出るようになることも。「こうしなければ」というものはなく、母子の状態によって、いろいろな選択肢から選べるようにサポートしている。
●(鹿児島県)大学病院勤務助産婦
・ 別室だったが、自分が夜勤の時、赤ちゃんが泣いたらベビー室から赤ちゃんを連れ出して添い乳をさせ、眠ったらベビー室に連れ戻すということを始めた。糖水は極力控え、頻回授乳も実施。約1年の時を経て同僚の賛同を得、母子同室・同床制になった。
・授乳室での授乳、特に夜間煌々とライトのついた部屋で頻回授乳を求められたら疲れて当然。お母さんも赤ちゃんもいい気持ちで産後・生後数日間を過ごすには、添え乳は最適な方法だと思う。窒息が心配だからと添え乳を禁止したり、夜間は別室にしたりするのではなく、窒息させないように見回りを多くするのが本当のような気がする。母子が添い寝している姿を見ると私の方が幸せな気分になり、癒される気がする。
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