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産院を変わる・複数の産院にかかる

REBORN第20号(1998年7月発行)より

希望も満たしたいし、医療的な安全性も確保したい。お産は多様化するほど、ひとつの病院や助産院では担いきれなくなります。妊娠中に産院を変わる、変わりはしないけれど他院と併診する、もしくは出産中に異常が起きて急に搬送される――そんなとき気持ちよく受け入れてもらえるように、出産施設どうしの横糸がもっと強くなって欲しいと思います。


リボーン紙購読会員を会員番号より無作為に選んで電話取材したものです。紙媒体のREBORNでは発言者の実名を載せましたが、ここでは個人情報を守るため匿名としました。           

構成・河合 蘭
文・小栗久実子、三好菜穂子
イラスト・宮下真沙美

 

 出産体験者への質問

○妊娠中、かかっているところ以外の産院にかかることを考えましたか。
○実際に他へかかった方は、困ったことがありましたか。

 医療者への質問
○他の産院と連携して妊婦さんを診る場合、あるいは他院から引き継ぐ場合、どのような問題がありますか。

出産体験者に聞きました



●(愛知県)個人産院で出産

 妊娠8カ月の終わりに別の産婦人科医院に転院。それまで自然なお産ができると聞いていたが、実際に産んだ人の話を聞くと、会陰切開や誘発などが多く、自分の希望に合わないことがわかったため転院を考えた。ただ、不妊治療にも通い、スタッフの方も親切だったので、少々後ろめたい気持ちがあったし、すでに妊娠後期だったので、今から探せるか、受け入れてもらえるかなどの不安もあり、1カ月ほど悩んだ。本で探した新しい医院は電話で問い合わせると親切に対応してくれ、その後、快く受け入れてもらえた。


●(神奈川県)総合病院で出産 
 ほかの産院にかかることは考えなかった。自宅から近く、母乳育児に力を入れているとの評判がよかったので選んだ病院だった。医師は何人かいたので、自分と相性のいい医師の担当曜日を選んで健診に通った。


●(東京都)助産院で出産
 助産院の指導もあり、総合病院と平行して診察を受けていた。総合病院では、助産院での出産をあまりよく思っていないようだった。「前置胎盤」「子どもが大きい」「羊水量が多い」などと不安材料ばかり聞かされ、「何があるかわからないから病院で産むように」といわれているように感じた。「やっておいたほうが安心だから」という検査も多く、病院の健診は行くのが嫌だった。


●(岐阜県)個人産院で出産 
 自宅近くの総合病院にかかっていたときに、流産の経験をした。そこでは切迫のときから「仕方ない」「もうだめだから」という感じの対応で、入院後のフォローもよくなかったため、次に妊娠したときはそこにいくのをやめ、最初から自分で納得のできる産院をさがした。他県で片道2時間ほどかかったが、妊婦期間中、楽しく通うことができた。

 
●(東京都)個人産院で出産 
 妊娠初期に病気にかかるなどリスクのある妊婦だったが、自分の希望に合う施設を探すために大学病院から助産院まで、8カ所で診察を受けた。そのなかのA助産院での出産を望んだが断られ、迷った末、実際に出産するB産院に決めたのは30週ごろだった。B産院の医師の了解を得て、A助産院の助産婦さんの介助で出産に臨むことに決めるが、B産院の助産婦さんたちには快く思われていないのがわかり、気をつかった。出産は帝王切開になり、A助産院の助産婦さんの介助を受けることはなかったが、エネルギーをつかってたいへんな思いをした出産だった。最後には「出産は人間関係だ」としみじみ思った。


●(埼玉県)第1子を総合病院で出産、第2子を助産院で出産
  第1子のときは出産した総合病院のみ。第2子のときは、総合病院→産科医院→助産院。 第1子が帝王切開だったので、第2子は経膣分娩したかった。高齢出産で子宮筋腫もあったため、総合病院、個人病院で断られ、「あなたみたいな人を受け入れたら、こっちが命とりになる」とまで言われた。最後に頼った助産院で受けてもらえることになり、その後の健診は、嘱託医に念のため診てもらった1度を除いて助産院のみ。 転院する際、紹介状もなく母子手帳の記録や血液検査の記録のみだったが問題はなかった。


(佐賀県)助産院で出産
  5ヵ月まで近所の個人産院。5ヵ月以降は、出産した助産院のみ。 水中出産をしたくて、それができる助産院に転院した。助産院に通うようになってからは、他の病院の併診はまったく考えなかった。 それまでかかっていた産科医院に対しては、「水中出産をしたいので助産院で産みます」と電話で受付の人に伝えたところ、「わかりました」とあっさり言われた。


(千葉県)第1子を市立病院、第2子を個人産院で出産
  第1子妊娠前に胞状奇胎の処置を受けたことがある、市立病院に妊娠初期から出産まで通った。第2子のときも、妊娠初期から出産まで同じ近所の産院に通った。 2回ともに、他の病院はまったく考えなかった。ただ、第二子のときの産院では、健診の際に「異常があれば市民病院に搬送する」と医師から説明を受けた。


(東京都)第1子をポーランドで、第2子を県立病院で、第3子を個人産院で出産
 第2子のときには里帰り出産だった。健診は近所の産科医院で受け、安定期に入ってから2、3度出産する県立病院にかかった。この子は巨大児だったが、紹介状には経過が書かれていなかったため、県立病院の医師は「状況説明が不十分だ!」と憤慨していた。第3子のときには、出産予定の助産院にかかりながら、嘱託医にエコーを診てもらいに行ったところ、逆子とわかった。助産院で体操などを指導され「逆子は治った」と言われたものの、心配で嘱託医を併診。嘱託医と助産院で「逆子」についての所見に相違があり、考えた末、嘱託医で出産することにした。


(埼玉県)個人産院で出産
 妊娠初期から出産まで同じ産院に通った。他院の受診はまったく考えなかった。産院のパンフレットには、「異常があった際には、私立病院に搬送されます」と書かれていたのを記憶しているが、あまり気にとめなかった。

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出産体験者に聞きました



●(石川県)個人産院勤務助産婦 
 母体を搬送したあと、搬送先の病院からの情報が来ない。赤ちゃんだけの搬送のときには、母親と搬送先の病院の看護者とで連絡ノートなどのやりとりがあるが、医療者間の情報の受け渡しはほとんどない。搬送後はやはり心配なので、ある程度の情報はほしいところだが、受け持ち制をとっていないため難しいようだ。里帰りで遅い週数になってから初診に来られた場合は、母親教室が予約制のため、受けられない場合がある。里帰りをする人は、出産までのスケジュールを問い合わせておくとよいと思う。


●(神奈川県)フリー助産婦 
 助産婦会で電話相談を受けていたことがある。転院の相談では、「一人目が帝王切開だったから二人目も帝王切開」「高齢出産だから誘発する」など、妊婦の状況を診ながらでなく、病院の方針として初めから決められていることに納得できず、希望に合わないというケースが多かった。自分の希望がかなう出産ができればいちばんよいが、命に関わることなので、初めその施設を選んだ時の原点に戻ってもう一度考えてもらうようにしていた。そのほかに気になったのは、医療者側の説明不足。健診中に十分な質問ができない雰囲気があり、流産、早産など何かあったときの対応も本人が納得できる十分な説明がされていないようで、不安から不信感を抱くケースも多かった。


●(大阪府)公立病院勤務助産婦 
 母体搬送を受ける場合、前の産院から来る情報が全例に揃っているわけではなく、とくに個人産院からくる情報が不足していることが少なくない。送り元から基礎的な情報をしっかりもらえれば、もっときめ細かく対応ができる。他院から自分の意志で転院してくる場合は、妊婦さんの話を聞くと、医師と合わないという理由のほか、スタッフに信頼の持てない言動があったり、説明不足だったりするケースが多いようだ。


(静岡県)有施設開業助産婦
 嘱託医は個人産院が2ヵ所。どちらも助産院に理解がある施設なので、搬送時には分娩に立ち会うことも認められている。市内には病院・医院が多いので、嘱託医を選べるという利点もある。分娩第1期に前期破水などがあれば、早めに母体搬送するようにしている。嘱託医には入院施設がないので、子宮筋腫などリスクがある妊婦さんは、あらかじめ総合病院で1度診てもらう。万が一、総合病院に搬送されることになった場合でも、カルテがあったほうがスムーズにいく。


(茨城県)総合病院勤務助産婦
 里帰り出産などでは、妊婦さんとゆっくり話す時間もとれず、妊婦さん自身も病院に慣れないうちにお産になってしまうケースが多い。紹介状や所見とともに、妊婦さんの生活背景がわかるようなものも添付してもらえれば、より充実したケアができると思う。また、助産院から搬送される妊婦さんは不安が強い。こちらも彼女たちの『助産院で産みたい』という思いをできるだけ理解したいと思っているので、助産婦同士が連携を取り合って、助産婦から助産婦へケアのバトンタッチができればいいと思う。


(岡山県)市民病院勤務助産婦
 混合病棟で、産科医も1人しかいないため、手におえる範囲には限りがある。そのため、スクリーニングテストで異常値があれば大学病院などに早めに母体搬送しているので助産婦にとっては安心感がある。質の高いケアを求めて、複数の産科・助産院を併診する人が、とくにここ1、2年で、地方にも増えてきたようだ。ケアの受け手にも"医療消費者"という自覚が芽生えてきている時代、病院も選ばれるようにならなければいけないと考えている。


(千葉県)保健所勤務の保健婦
 母子手帳を交付する際にかかっている出産施設名を書く欄があるが、最近、「出産施設は変えるつもりなんです」と言う妊婦さんが多い。希望する施設の第一条件として、「近いところ」があいかわらず多いが、最近では、「誘発剤を使わない、会陰切開をしない」など、ケアそのものの条件をあげる妊婦さんも増えてきている。しかし、なにぶん小さい町なので、都市部のような選択肢がないのが残念だ。

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