母乳育児
REBORN第15号(1997年4月発行)より
産後の母乳はデリケート。きっちり決められた授乳時間、安易な粉ミルク補充など、微妙なことで分泌量が減る。その後長く続く授乳ライフも諸説乱れ飛んでいる。そんな、母乳をあげにくい状態があるまま、一方では「粉ミルク=ダメ母」という短絡的な図式に苦しむ女性たちもいる。
リボーン紙購読会員を会員番号より無作為に選んで電話取材したものです。紙媒体のREBORNでは発言者の実名を載せましたが、ここでは個人情報を守るため匿名としました。
<構成・文>熊手麻起子、粕谷 恵、三好菜穂子、河合 蘭
<イラスト> 宮下真沙美
・入院中、どんな風に母乳またはミルクをあげましたか。
・母乳をやめたのは、いつ、何故ですか。
・それをどう感じていますか。
・あなたの勤務している施設の母乳に対する方針は?
・ミルク、糖水は飲ま せますか?
・入院中、どんな母乳指導をしていますか?
・退院後の母乳トラブルにはどう対応しますか。
出産体験者に聞きました
●(神奈川県)病院で第1子出産
・母子別室で、決まった時間に授乳室で母乳→ミルクの順であげていた。夜間は病院の 方でミルクを与えていた。
・娘は1才3ヶ月で授乳中。1才6ヶ月迄には卒業したいなと考えているが、あまり無理せず子どもの様子を見ながら断乳にトライしようと思っている。
・初めはおっぱいが出ず、その都度ミルクを足していたが、あきらめずにがんば り、2ヶ月の半ば位から完全母乳になった。でも、母乳かミルクかは、人それぞれの問
題だと思う。
●(宮城県)病院で第1子出産
・3時間ぐらいおきに授乳した。母乳以外 は糖水のみ。
・5ヶ月までは母乳だけで、その後ミルクを足した。9ヶ月頃、母乳が出 なくなったのでやめた。
・母乳量がわからないし、初産でもあったので、夜泣きの時などは不安だった。
●(東京都)助産院で第1子出産
・生まれてすぐにおっぱいをあげた。助産 婦さんが胸の上に乗せてくれて赤ちゃんが自分でおっぱいを探して吸いついた。
・6ヶ月で仕事に復帰したので、昼間はミルク、朝晩は母乳にした。
・冷凍母乳も考えたが、結構キツイのでわりきってミルクに。飲んでくれるか心配だったが、両方ともOKだっ た。母乳だけにこだわらなくて良かったと思っている。
●(秋田県)助産院にて第1子出産、現在妊娠9ヶ月
・生後すぐに抱っこして吸わせた。後は夜となく昼となくいつでも泣いてほしがる度に吸わせた。
・月経が 再来せず、第2子を希望していたため、2才3ヶ月で断乳。
・断乳して4週目で月経が 始まった。長男は今でも吸いたがるが、早産が心配なので、あと少ししたら、長男にも吸わせてもいいかなと思っている。
●(神奈川県)産婦人科病院で第1子出産
・産後3日目から母子同室だった ので、その日から母乳をあげた。最初は混合だったが、どの位母乳が出ているか分からないので、次の日から母乳だけに。
・2人目を妊娠し、1才4ヶ月で断乳。それから、息子は指しゃぶりとおっぱいさわりが大好きになった。
・母乳だと確かに胸がしぼむが 、おっぱいをあげている時の充実感には変えられないと思う。出かけるときに母乳だと、荷物が少なくてすむし、経済的にも助かる。
●(秋田県)個人産院で第1子出産
・バースプランを出し、産後すぐか ら母子同室。ひたすら、泣いたらおっぱい。その結果その病院で初めて母乳だけで過ごした産婦になった。助産婦さんも看護婦さんも母乳だけで育てることは、誰もできないと思っていたらしく、退院する時に、婦長さんから「いいものを見せてもらって勉強になった。ありがとう。」と言われた。周りの反対をおしきっても、やってよかった!と思った。
・現在(1才3ヶ月)も授乳中で自立卒乳するつもり。
・子どもが必要な時期 に離れていくと思う。子どもの成長と子どものペースで待ちたい。
●(横浜市)京都の個人病院で第1子、総合病院で第2子出産
・第1子は、昼間は母子同室で3時間おきに授乳した後にミルクを足した。夜間は新生児室でミルクを与えられ、母乳は絞って捨てた。第2子は、完全母子別室で3時間おきに授乳して、足りないときはミルクを足す。夜は絞った母乳を哺乳びんで与えてもらった。
・第1子は1才半。次の子を妊娠したのと、そろそろ断乳しようと思っていた時期が重なった 。第2子は2才直前。
・第1子は、断乳後に1週間くらい壁に頭を打ち付け、おっぱいをもらえない怒りを壁にぶつけていた。第2子はお互い満喫できたので、自然卒乳に近いと思う。妊娠したら、母乳は止めなければならないと聞いていたが、的確な正しい情報を知ることができたらいいと思った。
●(東京都)総合病院で第1子出産
・日中3時間おきに授乳室で行う。夜間 は看護婦さんがミルクを与えてくれる。母乳が足りない場合もミルクを与えた。夜間も 母乳を希望する場合は、母乳を認めてくれた。
・現在授乳中。子どもが歩くようになるまでは続けるつもり。
・病院のシステム上、仕方ないかもしれないが、母乳を与える時間を決めてしまうのは良くないと思う。赤ちゃんの授乳サイクルも個人差があるのだから臨機応変に対応して欲しい。
●(東京都)産婦人科病院で第1子出産
・3時間おきの決められた時間に新 生児室に行き、左右2回ずつ授乳。赤ちゃんがまだ欲しがる時はミルクを足していた。最初の2日間は糖水を与えていた。
・1才6ヶ月の時。虫歯ができ、歯科医に断乳をすすめられたから。母親もそろそろ断乳を考えていた。
・入院中は糖水やミルクが必要だと思っていた。今は、母乳が出ていたのになぜ足す必要があったのかと思っている。
●(横浜市)助産院で第2子出産
・いつでも好きなときに授乳。母乳のみ。
・現在1才9ヶ月で授乳中。
・スキンシップとしておっぱいタイムを親子共々楽しんで いる。抱きしめてしっかりとぬくもりを感じるせいか、明るく元気な子に育ったと思う。また、授乳をすると気持ちが落ち着くので、まだ母乳を続けたいと思う。
医療者に聞きました
●(奈良県)大和高田市立病院助産婦
・母体が回復するまでは新生児室で預かり、調子が良いならば直後から母子同室にするように近年努力している。
・母体の 調子がよければ最初から授乳を始めるが、おっぱいが出ない場合はブドウ糖か辷ませている。またリスクの多い赤ちゃん(飲めない・小さい)や大きすぎて母乳では足りな
い赤ちゃんなどは、母乳で足りるようになるまでミルクを与える場合もある。
・ほとんどのお母さんが母乳を飲ませたいと希望しているので、個別に指導するようにしている 。母乳指導はSMC(セルフ・マンマ・コントロール・・・自己乳房管理。自分でおっ
ぱいを管理し、退院後もおっぱいが出るように自分でマッサージする法)を行っている 。
●(千葉県)北海道の総合病院産婦人科元助産婦
・母乳で育てたいというお母さんの気持ちを大切にし、希望に添えるようスタッフもがんばっている。
・ミルク、糖水は飲ませない。そのため、体重増加や、母乳の出などを退院後もフォローをしている。低出生体重児や巨大児など、小児科医の立場から必要な場合は、糖水やミルクを飲ませる。
・自律授乳をすすめている。分娩台での直接授乳を行い、母が元気なら早めに頻回授乳をしている。
・乳房外来を設置しており、病棟で入院中にかかわっていたスタッフが担当する。電話による相談は24時間病棟で受けつけ、マッサージも行っている。人によっては断乳までフォローするケースもある。
●(岩手県)大学病院元助産婦
・母乳栄養の方針でケアをしていた。
・絶対母乳だけという希望者以外は母親の体調、母乳分泌量、新生児の状況(出生時体重、 体重の増減、哺乳力など)を総合的にみて必要と判断したときは、糖水、ミルクで母乳不足分を補給し、徐々に「母乳栄養」確立へ向けてケアしていく。
・分娩直後に分娩台の上で授乳をする。母子共に順調であれば、分娩後10〜12時間で母子同室。退院時 までに、母親が哺育全般が出来るようにチェックリストを活用し、必要と思われる場合
、家族の協力を求め指導している。
・母乳外来と電話相談を24時間開設している。母乳管理はひとりとして同じお母さんがいないので、専門的知識と技術が必要。
●(栃木県)元産婦人科病院勤務助産婦
・主に母乳を推めていたが、母子別室だった。
・生後8時間後くらいに糖水を与え、体重増加によってミルクを足す。
・分娩台にて初回授乳。授乳室にて授乳指導とマッサージと搾乳をする。スタッフの母乳に対する方針が統一されていないため、スタッフによって違うことを指導されるので、お母さんたちは戸惑っていると思う。
・母乳に詳しい助産婦があまりいないため、外来に来てもらっても対応ができない。決められた授乳時間にタイミングが合わず授乳できなかった人は、搾乳をすすめてきたが、余計におっぱいが張って授乳しずらくなり、悪循環になっている。この悪循環をもっと医療者は知るべきだと思う。理想と現実のジレンマを誰もが感じているのではないか。
●(草加市)草加市立病院助産婦
・妊娠中から助産婦外来で指導。完全母乳を目指している。
・生後8時間で糖水開始。生理的体重内であれば母乳のみ。生理的体重外であれば生後4日目にミルク追加もある。
・分娩直後に分娩台にて吸啜練習開始。24時間後母子同室。赤ちゃんが泣く度に授乳できる。入院中SMC、桶谷式乳房治療をその人に合った方法で指導。
・母乳外来を設置している。予約制で断乳まで通院してもらえる。
●(埼玉県)元産婦人科病院勤務
・特に方針はない。母子別室 だった。
・産まれた翌日の昼からミルクを与える。決められた時間に授乳にきてもらうが、その時間におっぱいが張っていなければ、ミルクを与えていた。
・SMCのビデオを見てもらう。自分の手が空いていれば、個別指導をしたが、母乳指導ができる助産婦が他にいなくて充分な個別ケアはできていなかった。
・小児科医が診て、母乳不足だと気がつくと、助産婦にまわしてくれたが、それ以外は抗生剤を出すのみだった。母子同室制で早いうちから頻回授乳ができる環境であれば、みんな苦労しなくて済むのにと思う。母乳かミルクかを自分で選択することもできず、病院がミルクを与えてしまうことによって、母乳育児をしたい人は、その後にものすごい努力をしなくてはならない現実がある。
●(大阪府)フリー開業助産婦
・母乳育児は本当はとても楽しいもの。義務であげてほしくない。お母さんの意思確認をきちんとして、押しつけにならないように、気軽に母乳育児に移行できるようにバックアップしている。母乳育児を楽しめること、リラックスすることをモットーとしている。
・哺乳びんの功罪が心配。栄養障害を起こさない限り、直接授乳を重視してほしい。
・決められた授乳時間にあわせると母乳が足りないと思う状況を作ってしまう。赤ちゃ んが欲しがった時に飲ませることを続け、入院中にリズムをつかんでほしい。
・病院に母乳に詳しい助産婦が少なすぎる。母乳トラブルで病院に行っても、SMCマッサージ 方法の画一的な指導だけだったり、抗生剤、分泌抑制剤、炎症剤を出されるのみという
対応が多い。
●(京都府)診療所勤務助産婦
・今までは特に母乳を推進せず、ミルクばかりだった。母乳ケアの充実をはかるため自分がこの春から勤務することになった。
・2日目から母子同室。糖水は飲ませず、ミルクを生後8時間以降から与えている。
・時間や回数に関わらず、赤ちゃんの要求にあわせて授乳すること、心と身体をリラックスさ せること、水分の摂取を心掛けること、この3点を押さえてムリさせることなくなく指導していきたい。また、分娩直後に授乳できるよう医師に働きかけていくつもり。
・自分の勤務日なら外来にてケアすることができるが、他に母乳指導できるスタッフがいな いので難しい。
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