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ストレスフリーな子連れカンパニー
Mo-house(モーハウス・茨城県つくば市)
文/河合 蘭

 授乳服メーカー「モーハウス」では、仕事と子育ては渾然一体として境目がない。全部で30名の雇用者全員が子持ちの女性。そのうち、在宅勤務や縫製の内職ではない事務所勤務スタッフは13名いて、うち10名が子連れで出勤してくるのだ。おそらくここは、全国でも子連れ出勤率No.1に輝いているに違いない。

●自分の授乳体験がきっかけで

 夏休みのある日、東京駅から1時間半ハイウェイ・バスに揺られ、学園都市つくばへ。

 国立の研究機関が並ぶ緑多いストリートを経て住宅地に入ると、モーハウスの主宰者・光畑由佳さん(写真・右)のユニークな住宅に着いた。光畑さんは、かつて建築書の編集者だったこともあり、惚れ込んだ建築家と共に建てたとてもファンタジックな家に住んでいる。

 光畑さんは、人生のその時にやりたいことを気ままに楽しんできた女性。お産や子育ても、ぜひやってみたいこと、楽しみたいことのひとつだった。

 ところが次女の母乳育児を始めてまもないある日、東京に外出して、JR中央線の中で思い切り泣かれた。授乳すればぴたりと泣きやみ、それ以外では決して泣きやまないこともわかっていた。思い切って、人前の授乳を決行した。

 その時の思いが、人にわからないように授乳できる授乳服の製造・販売に結びついた。かくれたスリットをいれた授乳服があれば、授乳中でも女性の行動範囲は格段に広がるはず。

●出勤時刻、休憩時間、退社時刻すべて自由

 モーハウスは7年前に設立され、2年ほど前に授乳服の製造販売部門を有限会社として法人化してから急成長をし始めた。自宅での仕事が限界になったが、そのころ奇遇にも、自宅の隣に建つプレハブが空き、事務所を手に入れた。今年は、前年度の売り上げ3,000万円を半年かからずに超えた。

 今春は駐車場もできて、朝、そこに次々と小さい子を連れた女性たちが乗り付けてくる。雇用形態はわずかな例外を除き時給制のパートで、出勤時間は自由だ。出勤時間も退社時間も、自分…というより、正確には子どもの都合で決める。勤務中も、子どもが眠くてぐずれば、寝入るまで自主的に休憩だ。母親にとっては、まるで夢のような働きやすさ。

 そのかわり、古参スタッフ以外、時給は県の労働基準が定めた下限ぎりぎりの額にしている。小さい子どもがいる、しかもその子を連れて通勤してくる女性は、もし「戦力」として見るなら小さい。

 でも、たくさんの人が少しずつ仕事をこなせば、働きにくい人にも働く場を提供でき、ワークシェアリングになる。何人分も働くような人が長時間働き、それが無理ならはじき出すのが通常の企業社会だが、モーハウスは、その逆だ。

●働きたい、でも、子どもを預けるほどではない

 スタッフの方も、仕事の見返りは金銭というより、むしろ、子育ての大変な時期に、さほどの犠牲を払わず社会参加ができる喜びだ。

 モーハウスに来ている理由を「大人の会話を求めて、かな」と表現したのは、最古参スタッフのひとり・福田千恵さん。4才の子が幼稚園に行っている時間帯に、2才の下の子を連れて勤務している。「近所のお母さん同志や育児サークルでは、子どもを中心にした会話ばかり。大人としての世界がありませんでした」。

 福田さんは、母親となる前は保育士として保育園に勤務していた。でも、保育園への復職について聞くと「あり得ない」と言う。保育士の仕事は休みがとりにくく、子どもが病気でもしたら、と思うと気が気でないから。

 「保育園の子はかわいそう」などと思ったことは一度もないけれど、自分は預けたくない。「深い意味はないんです。ただ単純に、生まれた子を見て、いっしょにいたいと思っただけ。モーハウスで働く一番の魅力は、何と言っても、子どもを連れてこられること」。

 福田さんは、今三人目を妊娠中で、自宅出産を予定している。モーハウスではときどき母親が遊びに来られるイベントを企画し、助産師が参画することも多い。その影響もあり、自宅出産や助産院出産をするスタッフが非常に多い。

●自分の「いま」にぴったり

 産休、育休は、これも休憩時間同様、自分で決める。福田さんは、今まで週4〜5日、朝9時半から2時半までを勤務時間にしていたが、「今回の妊娠は疲れやすい」と感じているのでこれから勤務を減らしていく予定だ。

 10カ月の子を隣に座らせて伝票処理していた牧田登志子さんも、この働きやすさに強くひかれたひとり。それで、他県からはるばる遠距離通勤をしている。

 結婚前はメーカーの営業職として活躍していた牧田さんは、転居により、やむを得ずその会社を退職してしまった。転居の理由は、結婚相手の転勤。 「女性は一度辞めてしまうと再就職は本当に難しい。パート社員のお給料では、保育料で大部分が消えかねない」

 牧田さんは、いずれはまた正社員として、どこかで働きたいという気持ちも持っていた。でも今の自分には、モーハウスが最適だと感じていた。

●子供がたくさんいるから、かえって働ける?

 「外に出て行って仕事をしたい」と「保育園に預けたくない」という気持ちが両方満たされているモーハウスは、考えてみれば不思議なところ。 両方を満たせている理由のひとつは、たぶん、子連れの母親ばかりが集まっているためではないか。

 たくさんの母親が子連れで集まれば、子どもたちには遊び相手がたくさんいる。刺激がたくさんあって、母親にばかりくっついてなんかいられない。親たちも「みんなの子をみんなで育てている感じ」だと口を揃える。よその子もかわいがるし、悪いことをすればしかる。

 昔の町の路地裏のような、あるいは農村のような共同体社会が、モーハウスの事務所のあっちの隅、こっちの隅で展開して、母親たちに仕事をする時間を与えているのだ。その意味で、モーハウスのこの風景は、新しく、同時に懐かしいものだ。

 子どもの都合で仕事ができない日があるのも、お互い様だから許容できる。ただし欠勤については、最近、くふうを始めた。まず、全体の作業の中でチーム分業を明確にした。そして、チーム全員が欠勤してその仕事が止まってしまう日はないよう、各チームで責任を持つことにした。そんな工夫で、今のところ、何とか業務が回っている。


●制約が多い派遣より、起業

 もっとも、保育園に預けることを選んだ人もいる。モーハウスがこだわるのは子どもをどうするか自由に決められることであって、預けないことではない。

 鈴木真子(もとこ)さんは、この春、5才と3才の子を初めて保育園に預けモーハウスのスタッフに加わった。「私の考えでは、子どもは、ある程度大きくなったら保育園という集団で育つのもいいと思う。預けたいかどうかは、子どもの年齢によります」

 鈴木さんは、大学院で生物学を修めた力を生かして、筑波に密集しているさまざまな研究所へ派遣の仕事をしに行くこともある。でも、そちらの仕事は母親としての都合など聞いてくれる仕事ではないので、今、積極的になれるのはモーハウスの方。

 起業やビジネスにも関心があり、光畑さんの姿にも刺激を受けている。かつては育児支援のNPOの仕事をしたこともあるけれど、ビジネスの方がいいと思う。目的や責任所在が明快だから。 

 でも、さしあたっては、子ども。もう一人欲しい。モーハウスにいながら3人目出産を果たし、1〜2才のうちは子連れ出勤をするつもり。


●あえて小さく働くこと

 モーハウスでは、午前中は猛烈な勢いで仕事が進められるが、昼過ぎのお弁当タイムあたりから空気が変わっていった。午後の2時もしくは3時を回る頃になると、事務所にいる親子が1組、また1組と減っていった。

 ここに流れているのは、「子ども時間」。子どもたちは、朝は元気で外向的。昼下がりなるとそろそろ一日は終盤。やがて、午睡をしていた子も起きてくる頃、大きな荷物を抱え、親子たちは帰っていく。子どもに引きずられるようでいながら、これはこれで1日のリズムである。

 ここに集まっている女性たちは、「小さい子がいる」という現在が人生の特別な時期であることを大切にし、あえて小さく働くことを選んだ人たち。でも、子どもと自分両方の気持ちを大事にして、というモーハウスのメッセージは、全国の女性たちに大きな共感を呼んだ。 

 それが会社のめざましい成長につながっている。 「ここまでモーハウスを育てられた。自分はもっとやれるかもしれない」という手応えを感じている彼女たちが、今、胸に抱いてる夢も大きいに違いない。

 

(2004月7日 取材/事実関係はすべて当時のものです)



■Mo-House (モーハウス)
1997年、光畑由佳さんが自分自身の授乳経験を生かして設立して授乳服の製造・販売をしている。出産・母乳関係イベントなど非営利活動にも力を入れてきた。大きな宣伝はせず、母乳育児に力を入れる産院からの紹介と、クチコミによる通信販売で売上げを伸ばす。全国に自主的に設立された支部「モーハウスサークル」も、20カ所を越える。インターネットでも、自サイト、「楽天」「ママチョイス」の3カ所でショップを展開中。

〒305-0836 茨城県つくば市山中480-38  TEL 029-851-7373
ホームページ http://www.mo-house.net/




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