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WHO(世界保健機構) 
1985年 出産科学技術についての勧告

 

 WHO(世界保健機構)のヨーロッパ地域事務局およびアメリカ地域事務局は、1985年、出産に使われる科学技術の適切な使い方についてブラジル・フォルタレザで会議を開き、勧告を出しています。

 日本はアジア地域事務局に属していたため、この勧告は日本へ公に入ってくることはありませんでした。しかし、欧米同様の問題を抱える日本の産科にとって、これは紛れもなく重要な勧告です。

◆2001/12/21 この勧告の成立と科学的根拠についての本が出版されました。
『WHO勧告に見る望ましい周産期ケアとその根拠』

●●●以下、WHOレポートの日本語訳です。●●●

WHO(世界保健機構) 出産科学技術についての勧告

WHO Repont ICP/MCH 102/m02 (S) 1301K 10 June l085
Joint International Conference on Appropriate Techno1ogy for Birth
Fortaleza, Brazil, 22-26 Apri1 1985

 

出産のための適切な科学技術についての地域間共同会議
1985年4月22〜26日 於・ブラジル、フォルタレザ

要約レポート


 WHOのヨーロッパ地域事務局およびアメリカ地域事務局は,南北アメリカとヨーロッパから,助産婦,産科医,小児科医,保健行政に関わる政府関係者,社会学者,心理学者,経済学者,サービスの受け手からなる60余名の参加者を迎え,合同会議を開催しました.そして,以下の原則に基づく多数の勧告が採決されました.

すべての妊婦は,適切なケアを受ける基本的な権利を持ちます.


あらゆる面において,ケアの中心的役割を演じるのは女性です.女性は,ケアの計画, 実行,評価にも参加します.


適切なケアとは何かを理解し,それを実施するうえで,社会的,心情的,心理学的要 素はとても大切です.

 

■勧告 General recommendations

1.医療サービスおよび商業市場への科学技術導入に対し,保健関係省庁は具体的な方針を打ち出すべきです.


2.出産に使われる科学技術の評価について,国々は,共同研究を実施する方向へ向かうべきです.
3.女性一人一人が自分の望むタイプのケアを選択できるように,出産のさまざまな処置に関する情報は,広く社会に知らされなければなりません.


4.女性の相互援助グループは,とくに出産に関しては,社会的支援と知識伝達の仕組みとして,なくてはならないものです.


5.非公式の周産期ケア・システム(伝統的出産介助者を含む)については,それが存在する場所では正規のシステムと共存するべきです.母親のためを考え,協力関係を維持しなければなりません.このような関係は,どちらかが優位に立つことなく平等に確立されるなら,たいへん高い効果が期待できます.


6.出産ケアに携わる人の養成は,その社会的,文化的,文化人類学的,倫理的な知識が深まる教育をめざすべきです.


7.専門職としての助産婦あるいは出産立ち会い者の養成は奨められるべきです.正常に経過している妊娠,出産,産後のケアは,この人たちの職務であるべきです.


8.科学技術の査定は,病理学者,社会科学者,保健行政当局といった,その技術を使うあらゆる人々をまじえて学際的に行われるべきです.また,技術を使われる女性も,査定の計画,評価,および結果を広く知らせる行動に関わるべきです.査定の結果は,調査に関わったすべての人々に知らされるとともに,調査が行われた地域社会にも還元されるべきです.


9.病院の産科診療内容についての情報は(帝王切開率など),一般利用者に公開されなければなりません.


10.母親になる女性の心の健康を確保するために,お産には産婦が選んだ人が自由に立ち会い,産後も簡単に面会できるようにするべきです.


11.母親と赤ちゃんの状態が良いときは常に,健康な新生児は母親と一緒にいるべきです.いかなる観察も,健康な新生児を母親から離す理由にはなりません.


12.母乳哺育の開始は,母親が分娩室を出る前から奨められるべきです.


13.周産期死亡率が世界的に見て最も低いレベルにある国々は,帝王切開率が10%以下です.いかなる地域においても,10〜15%以上の帝王切開率が不当であることは明らかです.


14.子宮下部横切開による帝王切開の経験者は次も帝王切開が必要であるとする考えには,確証がありません.緊急手術の可能な場所であれば,普通は帝王切開経験者にも経腔分娩を奨めるべきです.


15.出産中,誰にでも分娩監視装置を用いることが良い結果を生むという確証はありません.分娩監視装置は,注意深く選ばれた医学的なケース(高い周産期死亡率に関わるような)および誘発分娩に限定して使われるべきです.電子胎児監視装置とそれを使用する適正なスタッフが得られる国では,この装置によって恩恵を受け得る特定の女性を選び出すための調査を行うべきです.その結果が判明するまで,国営医療機関は,この装置の新規購入を控えるべきです.


16.剃毛と出産前の浣腸は必要がありません.


17.陣痛中,および出産の時に,女性に砕石位の体位をとらせてはいけません.陣痛中は歩き回ることが奨められるべきですし,生まれるときにどんな体位をとるかは,それぞれの女性が自由に決められるべきです.


18.会陰切開を慣例的に行うことは,正当ではありません.他の方法による会陰部の保護が検討され,行われるべきです.


19.出産は,社会的な便宜のために誘発されてはならず,陣痛の誘発は特定の医学的適応が認められる場合にのみ行われるべきです.いかなる地域においても,誘発率は10%を超えるべきではありません.


20.出産中は,問題の解決あるいは予防のため,とくに必要でない限り,鎮痛剤および麻酔薬の慣例的な使用は避けるべきです.


21.通常,出産が最終段階に至るまで,破水は起きなくて構いません.誰にでも早期に人工破膜を行うことには,科学的な正当性がありません.

■勧告の実施について Implementation of recommendations


1.政府は,保健関連省庁において,適切な出産科学技術アセスメントを奨励し,調整するための部門を明確にするべきです.


2.財政機関は,科学技術の乱用を阻止するために,財政上の規制を行うべきです.


3.科学技術に対し厳正な態度で向かい,出産ケアの心情的,心理学的,社会的側面を尊重する態度をとる出産施設は,その存在が明らかにされるべきです.このような施設は奨励され,その方法が学ばれて,他の施設においても同様な態度が育ち,国内の産科の見解に影響を与えるモデルとなるべきです.


4.出産科学技術アセスメントの結果は,専門家の行動を変化させ,ケアの受け手および一般市民が意志決定を行う際の基本的概念を提供するため,広く知られるべきです.


5.政府は,新しい出産科学技術は,適切な査定が行われた後にのみ使用が許可されるという規制について考慮すべきです.


6.医療関係者,当局,ケアの受け手,女性グループ,報道関係者が集まり,国あるいは地域レベルで出産について討議する会議は奨励されるべきです.


(訳/河合蘭・戸田律子)