出産場所の減少は止まるところを知らず続いています。
いよいよ産み場所がなくなってきた厳しい現実を、産む人の声で広く知っていただくため、今後しばらく、かかろうと思っていた出産施設がなくなってしまった女性たちの声を集めていきます。
illustration by 平井さくら
紙REBORN23号(2007年冬号)から
聞いて!私のお産難民ニアミス
取材・文 河合 蘭
臨月で突然の宣告「ここは閉鎖します」
キキさん(32歳)埼玉県 ひとりめ2歳 ふたりめ妊娠中
臨月に入ってすぐの妊婦健診で、お腹に超音波を当てられていた時のことです。唐突に「産科が休止になるので分娩できなくなったんです」と言われました。あまりの突然の通告に、初産で産み月の私はパニックに。妊娠期間中で最も不安に陥った瞬間でした。
家から5分くらいの距離にある市立の総合病院でした。通っている最中から外来に産科医不足の記事がたくさん貼られるのを「なぜ、こんなに目立たせているのかしら」と思ったことはありました。しだいに、他にもかかれる場所がある人はできれば転院していただきたい、といった意味の掲示物も貼られるようになり、「○月以降の分娩予約は締め切りました」という掲示も現れました。それを見て私は、締め切られた人はどうするのかしら、私は入ることができてよかった、とのんきに思っていたのです。
病院としては、臨月の人も受けられなくなる可能性は前々からわかっていたけれど、何とかしかたい、と道を探っているうちに告知が遅れてしまったのだそうです。しかし、私にしてみれば、この時期に聞くにはあまりにも急な話でした。
産み場所をいきなり失った人のために、病院には臨時の相談室が設けられていました。事務職らしい人が二名と、看護師さんの制服を着た人が一名いたその部屋に行き、ここの病院の妊婦は、3箇所の病院に受け入れを承諾してもらっていることがわかりました。その3つの中で優先順位をつけて欲しいと言われたのですが、どの病院も私には海の物とも山の物ともわかりかねる所です。
私は、病院を一目でいいから見たいと思いました。私は自営業で夜が遅いお店を営んでいます。それで午前一時頃になってしまいましたが、夫と車を飛ばして、真っ暗な中、病院を壁の外から見てきました。三つのうちひとつはあまりにも遠かったので行くのをやめ、もうひとつはいい評判がなかったのでやめて、消去法により残ったひとつの病院を見に行ったのです。私はそこで出産しました。私のような体験をした妊婦さんは、その病院に60人くらいいたそうです。お産難民のことは報道で見ていましたが、都市部にもあるんだと痛感しました。
ひとつ、私が腹を立ててしまったのは、その後、病院から現金書留が送られてきたことです。あけると一万円札が入っていました。新しい病院では初診料もかかるから、ということなのでしょうが、こちらは臨月でとても感じやすくなっていましたから「こういう対処で片づけられたらたまらない!」という怒りを感じ、丸めて投げ捨ててしまいました。
出生届を出すとき、市役所に意見箱がありました。私はそこに今回のことを書いて入れてきました。病院ではなく、もっと広い場に声を投じたかったのです。すると、市役所の方が1人家に来ましたが、「私はこの課に来たばかりで事情がよくわからない」というお決まりの言葉が出てきました。その後、どういう形で私の声が反映されるのかは、今もわかりません。
その病院は、その後、産科を再開しました。そして私はまた妊娠しているのですが、もうその病院は選びませんでした。車で30〜40分かかりますが、一人目を産んだところでまた出産します。近所の個人産院で妊婦健診だけしてもらえることもわかり、健診はそこに通っています。
となりの病院が産めなくなってしまいました
ミヒロママ(26歳) 東京都 ひとりめ1歳、ふたりめ妊娠8週
家の隣にある大きな病院でひとり目を出産し、現在年子で第二子を妊娠中です。でも、この妊娠がわかるかわからないかの頃、友達から、その病院の産科が閉鎖されるというニュースを聞いてショック。このあたりは、ほとんどの人がそこで産んでいるんです。去年そこで産んだ人が医師が減ってきた、と言っていましたが、まさか近所の病院でこんなことが起きるなんて思っていませんでした。
仕方がないので家から30分くらいの大学病院に行ったのですが、そこにも「分娩の数を制限しています」という貼り紙がしてありました。診察室では、まだ初診なのに「ここで産みますか」と聞かれ、妊娠5〜6週でしたが分娩予約を入れました。
地方では一番近い産院まで1時間かかる人もたくさんいると聞きますから、私は恵まれていると思うべきでしょう。でも大学病院へ一才の子を連れて行くのはやはり大変で、ぐったり疲れます。
となりの病院で妊婦健診が受けられたら、そこへ行くかもしれません。隣の閉鎖された病院に産科の先生はまだ3名いますし、助産師さんもたくさんいます。サイトを見たら「助産師外来をやっています」と1行書いてありました。でも、それだけなので、何をしているのかわかりませんでした。助産師さんという資格がどういうものかもよく知りません。
次の自然出産は期待していたのに
ほのちゃんママ (34歳) 東京都 ひとりめ1歳
もうひとり産みたいな、と思っているところです。以前の出産は緊急帝王切開だったのですが、主治医も信頼できる人で助産師さんたちも頼もしかったから、次もぜひその病院で産みたいと思っていました。でも、そこは産科を閉鎖してしまいました。「次のお産では、自然出産に挑戦することもできるからね」と言ってくれていたのに。今、帝王切開をしている人はまた帝王切開になるのが普通ですよね。固執しているわけではないけれど、チャンスがあることはうれしかったですね。実際、入院中同じ部屋にいた人が、帝王切開の後で自然に産めた人だったんです。
産みたい病院はなくなってしまったし、次の出産は里帰り出産をしようと思っています。里帰り先の市立病院も閉鎖されたのですが、幸い、つい最近再開になったので。次は帝王切開での出産になりますが、それはしかたがないですね。
REBORNスタッフもお産難民ニアミスを体験
新堀玲子(神奈川県在住)
3人目を11月に出産しましたが、この出産はこれまでになく産院探しにヒヤヒヤしました。第2子までお世話になっていた病院は、市の第3セクターに入って経営権が移り、職員が一転。そして、分娩予約の件数を制限していたのです。まさか、妊娠6週で問い合わせた時点で「分娩予約がまもなく一杯。待合室に待っている人がいるので、あなたがこれから来て空いている保証はありません」と言われるなんて、夢にも思いませんでした。妊娠5週って、周期が一定の人でない限り気づかないレベルではないですか・・・。
病院の雰囲気の変化、そして今度は高齢出産だということもあり、結局その病院はやめてNICU(新生児集中治療室)のある病院で出産することになりました。万が一の時のことを考えて産み場所を選んで欲しい、という夫の意見を尊重したのです。それから、神奈川県の妊婦が緊急搬送で千葉の亀田総合病院にヘリコプター搬送されているというたニュースもショックでした。神奈川には大きな病院がたくさんあるのに、もし何かあったら千葉までヘリで搬送されるのか、と思わずにはいられませんでした。