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名古屋駅真ん前の不妊治療クリニック 2011/12/17

この秋不妊治療の専門医中心の学会にふたつ取材に行きました。そこで痛感したのは不妊治療の患者さんが急速に高年齢化しているということ。「これが現代の不妊治療の最大の課題」という言葉を何度聞いたかわかりません。

印象的な講演、研究がたくさんあったのですが、中でも高齢妊娠の方のためにぜひお話を伺いに行きたいと思ったのが名古屋の浅田義正医師でした。顕微授精の最先端を走り続けていらっしゃることや、また最近では卵巣に残っている卵子の数を推測する「AMH検査」の先駆者としても知られる方です。

浅田先生は、演台に立った姿を最初にお見かけしたとき、ご著書で見ていたお写真とは別人としか思えないほどスリムだったので、ちょっと目をクシュクシュこすりたくなったのですが・・・

連絡をとらせていただくと、私の『未妊−「産む」と決められない』を読んで下っていて、二度にわたってインタビューさせていただきました。

一度目は名古屋駅の本当に真ん前!のクリニックで。ビルは1〜2階がPLADAでその上にクリニックがあり、グラスタワー風の建物なので待合室は全面がガラス。空を飛んで名古屋駅前の賑わいを見ているような、ちょっとびっくりする眺めです。窓辺にはi-padを使って不妊について学べるコーナーもあり、ずらりと椅子・テーブルが並んでいました。

不妊治療のクリニックは便利でお洒落なロケーションが多いのですが、路地にそっと作られることが多いのです。それも、ひとつのこまやかな心遣い。でもここは本当にオープンで、患者さんがここで治療をがんばっていることに誇りを持てるような空間だと思いました。

そして、ここには「世界中の誰が来ても恥ずかしくない」と浅田先生が言い切るラボがあり、見学通路もあります。ガラス越しに手術室のレベルを大きく上回るきれいな空気を保つための空調、一個ずつ個別のドアを持つ胚凍結の設備などを見ることができました。

それらを見せていただいたあと、ここでの治療を考えているご夫婦を対象にした説明会を聞かせて頂きました。「自然に妊娠したいのは、誰でもそうです。でも現実はこのように厳しい・・・何が自然なのでしょうか。年齢が高くなれば、妊娠しないことが自然です。」

浅田先生が大切にしているのは「結果にこだわる」ことでした。そのために医師がまず自分の覚悟を伝え、エントリーしてくる人にも覚悟をはっきり求めているのがこのクリニックの特徴です。

ちなみに、浅田先生がスリムになられた理由も判明いたしました。キャベツダイエットでを実行し、今も続けているのだそうです。名古屋駅前にこのようなクリニックを作ってしまっただけではなく、ご自分の身体についても「実行力ありすぎ」です!、浅田先生。

二度目のインタビューは横浜で。前日まで学会があり、名古屋に帰る前のくつろぎのひとときに海を見ながらゆっくりお話させていただきました。

時を忘れてお話してしまったという感じでした。

私が聞いた質問は、卵子の世界のことや不妊治療に対するさまざまな考え方、見方について。先生の実に興味深かったアンサーの数々は・・・少しずつ書きます。あるいは、新著で存分に堪能してくださいませ。今はとても書ききれないほどです。

<写真> 中央が名古屋駅正面から望んだ浅田レディース名古屋駅前クリニックのビルです。

浅田レディースクリニック
http://ivf-asada.jp/


陣痛中を楽に過ごすには 2011/12/2

今月のラジオビタミンは、陣痛の痛みをやわらげるにはどうしましょう、というお話でした。

要点を書き出して毎月担当の方に送りますが、こんなに簡単に書けたことはありません。ひょっとして、私のお題のなかで、これ十八番かもしれません。ちょっと自分を知る機会でした。

長い間フアン助産院で臨月クラスをやってきて、間もなく陣痛を迎える方たちとじっくりお話ししてきたので当たり前といえば当たり前。お産も三桁になるくらいは立ち会わせていただいたので、いつのまにか、村々にいたお節介おばさんみたいになったのかもしれません。

陣痛の痛みの和らげ方は妊婦さんの本にも助産師さんの専門書にもいろいろ載っていますが、どんな方法でも要するに効けばよい。たいていは自分のやり方ができていきます。ただ、やっていることが自分で気持ちがいいのかよくないのか、わかることが大事。それには妊娠中に冷えの予防法などでセンサーを育てていくのが、一石二鳥ですし、おすすめです。

さらに私はいつも「三つのR」ということを言っています。これは、20年くらい前、米国でお産の寄り添いをしてくれる「ドウーラ」という人たちの養成システムを確立させたペニー・シムキンさんに取材した時に教えていただいたことです。

「三つのR」とは、リズム rythm、リラックス realax 、儀式 ritualのことです。儀式とは決まったことをするという意味ですね。ただし他人が決めたことではなくて自分が「これがいい」と思ったパターンのことです。リラックスして、自分が、しばらくはこれでいこうと思った「決まったこと」を、無心に、リズミカルに繰り返すということです。

ゆったりした呼吸をリズケミカルに続けてリラックスしていくだけでもいいんですよ。その時に身体をゆらしてもいいし、2人でチークダンスみたいになっていくご夫婦もいます。

これは、人間の脳の仕組みをうまく利用した「集中」の方法で、世界中の宗教にも見られます。。シムキンさんの、この「秘伝」とっても効きますよ。

というようなことを話していたら、時間が迫ってきて村上さんが手で「巻いて、巻いて」をしたので、それには妊娠中から産院の中で好きに振る舞えるような信頼関係を作っておこうね、ということで終わりました。

NHKラジオ 第一放送「ラジオビタミン」
http://www.nhk.or.jp/vitamin/index2.html



種子島のシンポジウムに遠隔参加 2011/11/26

今日はお昼から夕方までずっと、動画サイト「USTREAM」で、種子島でおこなわれたへき地離島周産期医療フォーラムの中継を見ていました。

また、私が送ったビデオレターのあと、ウェブカメラを使ったテレビ会議システムで2分間会場とつなぎ、種子島唯一の麻酔科医で司会の高山先生と2分間お話しました。カメラに本棚が映るので、始まる前に斜めっていた本をまっすぐに起こすなどゴソゴソ・・・

19日の日記で練習したシステムです。会場の、まだウェブカメラを使ったことがない方には、ステージに映し出されたパソコンの画面でリアルタイムの遠隔コミュニケーションを見て頂くことができました。本当に簡単でよかったですよ。このウェブカメラのシステムを持っている子育て支援ネットワークの「がじゅまるの家」では、これを利用した小児科相談をおこなっているとのことです。

私の後には、有名な岩手県のモバイル妊婦健診を活用し、沿岸地域の医療過疎を支えてきた小笠原先生が同様のシステムで岩手のネットワーク「いーはとーぶ」のことなどを紹介されました。

またそのあとには、ステージで高山先生がスタッフ男性の心電図や血中酸素飽和濃度をモニターし、鹿児島大学の先生がそれを読み取るというデモンストレーションもありました。

助産師さんの活躍。ALSO(Advanced Life Support in Obstetrics 「オルソ」と呼ぶそうです)という家庭医などを対象にした分娩取り扱いの教育。妊婦さんの情報をクラウドで地域の医療施設が共有するシステム。そしてインターネットの活用など、現在へき地で進んできていることがよくわかりました。

そして私がこのシンポでとても印象的だったのは・・・

基調講演をされた池之上克先生と、現在種子島のお産を島内唯一の産科医として支えていらっしゃる住吉稔先生のお二人は、かつて五つ子を育てた医師チームのお仲間だったそうです。

ニュースを賑わせ続けた五つ子の成長は、当時、日本の医学はこんな素晴らしい段階に達したのだということを示す象徴でした。先に先に、上に上にと進んだ時代でした。突出した一施設がどんどん先へ行く医療が、全体の希望だった時代でした。今、その先生たちが、その進んだ医療の光が影を作りかねない地域のために尽力されているのです。

住吉先生は、種子島で行政が出産場所の確保に本気で乗り出し初の公立産院を作った時、59歳という還暦を過ぎた年齢で島に赴任されたとのことです。そして今は、毎朝のように「種子島のお母さんたちをお守りください」と祈る散歩で1日を始めていらっしゃるとのことでした。その道から見えるいうあたたかい太陽の写真が強く心に残っています。

島のお産を守るということは、心意気のある、人間味あふれる方たちの結晶なのですね。感動しました。でも、こうした心意気のある方に綱渡りをさせてはいけないし、やはりシステム構築が不可欠です。

産科医不足で最も苦しんだ県のひとつ・岩手県が、今、日本中からモデルとされています。それは震災の時の立ち直りの速さにもつながりました。周産期医療の人間にとっては、この度の震災は産科医不足が深刻だった地域と不思議なほど被災地が重なっており、連続性のあるストーリーになっています。

お声をかけてくださった高山先生、いい機会をどうもありがとうございました。高山先生に『安全なお産、安心なお産−つながりで築く壊れない医療』を高く評価していただいて、本当にうれしかったです。