『子どもを選ばないことを選ぶ――いのちの現場から出生前診断を問う』 大野明子編著 大野明子編著 メディカ出版 2003年 ¥ 1,890(税込) ISBN978-4840407731
東京都で、「お産の家 明日香医院」を開院している産科医大野明子さんの本。大野さんが明日香医院でとりあげたダウ ン症の赤ちゃん、その家族との交流をもとに、いのちとは何か、出生前診断とは何かという問題についてつづった本。臨床遺伝医長谷川知子さんのインタ ビュー、ダウン症の子どもをもつ母親、父親との座談会やインタビューも収録されており、その一言一言が胸に響く。表紙、書籍中のすてきな写真は宮崎雅子さ んによる。 読者の私がダウン症の方やその家族と関わった経験は少ない。あるときダウン症を 強く疑わせる赤ちゃん、そのお母さんと生まれたその日から3日目まで過ごしたことがあった。そのお母さんはこちらがとまどうほど明るくふるまっていた(よ うにみえた)けれど、3日目、一人で泣いていた。「まだ一度もおめでとうと言われていない」と。お母さんは子を愛しているのに、これから何回涙を流すのだ ろうと思った。何年も前のその経験が、本書を読むまで私のこころに深くつきささっていた。 この本には次のように書かれている。「まわりが受けとめてくれないなどと、両親が周囲のせいにすることもあります。けれど、それは自分が受けとめていない ことを、他人のせいにしているように思えます。なぜなら、たとえまわりが受けとめていなくても、親が受けとめていれば、まわりも変わってきます。世の中に はいろいろな人がいますから、相手が変わらないなら無視することも必要です。」 ダウン症の お子さんをおもちのMさんは次のように言う。「受け容れるということで何が問題かというと、自分自身でした。自分の見栄とか、この子は知能が低いと言われ てしまうことや、養護学校に行く春乃がいやだ、それを自分が受容できないということなのです。夫は『きみは有名中学に入らない子どもを嘆く親と、なんら大 差ない』と言いました。」 そして、Mさんには、こんなことがあった。「私の出産後から最近に かけて、初めての子どもを妊娠した同い年の友人がふたりいます。『出生前診断はどうするの』となにげなく聞いてみたら、『春ちゃんを見ていて、問題がない とわかったから受けない』と、ふたりとも言いました。」 小中学生とこの本について率直に話 す機会があった。驚いたことに、彼らは「21トリソノミー」という言葉を知っていた。理科や生物学分野(遺伝)で学習したのだそうだが、この本に書かれて いるような、ダウン症の人の個性や生活力については何も知らない。ダウン症の子どもやおとなと抱きしめあったり、手をつないだり、話したことのない私や社 会がもっている知識というのは、同じように、ずいぶん偏っているのだろう。 私は今第2子を 妊娠中である。1人目のときも、検査で知ることができる範囲の先天的な異常があることやその確率があることで人工妊娠中絶することはないだろうという漠然 とした理由で、狭義の出生前診断は受けなかった。ただ、それならダウン症の子どもを望むかといえば、答えに窮したと思う。私が思い描いていた人生がどのく らい修正をせまられるのか、それを悔しく思ったり子どものせいにしたりしないかというのがその理由。でも、子どもがいてもいなくても、子どもがダウン症で もそうではなくても、人生では不測の事態を受けいれるだろうし、それもまたいいなと、そんな当たり前のことに気づいた一冊。 これからお産する方、その家族、医療者、すべての方に。専門用語には注がついているので、中高生から一人でも読める。 REBORN・白井千晶 オビより 目次 著者プロフィール 産 科医。岐阜県岐阜市出身。子ども時代は本ばかり読んで過ごした。1980年東京大学理学部化学科卒業後、東京大学大学院理学系研究科化学専門課程修士およ び博士課程修了、理学博士。無機地球化学専攻。温泉や火山ガス中のマントル物質を探る研究をしていた。出産後子どもを母乳で育てる体験から産科医を志し、 愛知医科大学医学部医学科に編入、1993年卒業する。日本赤十字社医療センター、日本医科大学付属病院、愛育病院、東部地域病院に勤務。1997年6月 より出張分娩(自宅出産)専門の「九段お産相談室」(98年8月「明日香医院」と改称)を開設する。1999年6月より杉並区高井戸にて「お産の家明日香 医院」開院。以降、入院分娩も扱い、現在に至る。小さなお産の家で、助産師スタッフとともに、お産に精進する日々を暮らしている。日本産科婦人科学会専門 医、日本新生児学会会員、日本母性衛生学会会員。 この本が買えるページ amazon.com |
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