『おまけの人生』 本川達雄著 阪急コミュニケーションズ ¥1,575(税込) ISBN4-484-05210-5
◆時計の奴隷にならない、生き物らしい時間を生きるゾウもネズミも一生のうちに心臓が打つ回数は同じ15億回、という法則で世間を驚かせたベストセラー『ゾウの時間ネズミの時間』著者のエッセイ、講演を集めたもの。 ここでは、同じ種でも一生の中で時間の流れ方は違うという考えが出てくる。生き物にとり、時間は時に止まり(冬眠、種子の冬越しなど)、時に春の光 の中で猛烈に加速する。さらに、永平寺での講演では、「正法眼蔵」に書かれた時間論の解釈に挑戦している。道元は、時間はその生き物のエネルギーの使い方 で流れ方が変わると考え「ねずみは時なり、竹も時なり」といった言葉を残しているという。 時間について考えることは抽象的で難しい。だが、そのような多様な時間に開眼する体験は、してたみたいものだと思う。本川先生は棘皮動物が専門なの で、沖縄の海で一日中浮いてナマコを見ていたらしい。一日見ていても10メートルくらいしか動かないナマコ。このときの、ナマコにはナマコの時間が流れて いるという感触が、本川先生を時間の研究へ向かわせたそうだ。 私たちは毎日「時計、時計」と思って生きているし、1時間は60分である以外にどんな時間もないと思っている。だから分娩室でも、時計を見て、1時 間経つと「促進しましょう」などと言う。けれど、その時間とは、時計がカチカチ勝手に刻んでいるだけのものかもしれない。冬眠する動物は、その分長生きだ という。生き物は、時間を止めたり、流したりできるのだ。 こうした時間の感じ方が、「ニュートン教」の物理的、数学的考え方からは出てこない。しかし、同じ科学でも、生き物を対象にした生物学は数字では割り切れない。本書が言うように、科学と自然世界の中間にある生物学は、これからたくさんのヒントを提供することになるだろう。 ところで、タイトルの「おまけの人生」とは、人の老後の時間のことである。実は、人のサイズでは、15億回心臓が打ち終わるのは40代。そのあと は、科学の力で手に入れた、自然界にはほとんどみられないおまけの時間なのだ。本川先生は、引退後の人くらい時計に追われず、自分が、自分の時の歯車を回 す主人公になってはどうかと提案している。 今の日本では、朝か夜か、夏か冬かの区別さえなく、流れるエネルギーはのっぺりしているように思う。ここで生物学的人生で実践するのは難題だなあ、 と思うが、生物学は世界の見方を変えてくれるのです、と本川先生は言う。ナマコのことを知って何になるんだね、という人に、本川先生は、数字をすべてには しない、新しい哲学を提示している。 (REBORN 河合 蘭) オビより 目次 この本が買えるページ amazon.com |
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